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若本修治の住宅コラム

2017.11.20 第137話

公有地の民間活用・売却と、地方の副作用

国や地方の財政が厳しくなる中、すでに役目を終えた公務員宿舎や庁舎跡地など、公有地が公募で売却され、民間の活力利用として公費の支出を抑えた再開発プロジェクト、跡地利用プロジェクトが全国各地で推進されている。国や自治体は、ほとんど税金を投入することなく、民間のアイディアと資金によって、固定資産税増と土地の売却利益を得られる、まさに一石二鳥の事業だとして、今や国交省も旗振り役を果たしているように感じられる。

 

公有地の売却は、基本的に「より高い購入金額を提示した会社・グループ」が優先交渉先として選ばれる。もちろん提案内容に、公益に資する施設の計画や地域住民に配慮した提案があることが望ましいが、やはり最も大きいのは「売却金額の大きさ」「経済効果」だろう。他社と競って、より高い価格を提示するには、より収益性の高い事業、つまり「容積率を目一杯使う」ことと「出来るだけ早く投資した資金を回収する」計画を組むことになってしまう。そうなると、ほとんどの計画が中高層の分譲マンションで投資金額を回収し、サ高住など「福祉関連の補助金が見込める」という、どれも同じような計画が立案されている。

 

中高層マンション増加の副作用

 

民間事業者が、公有地を高く買い取る場合、市場性を考えて投資に見合うリターンが得られるかどうかが入札価格に反映される。広島市内の好立地にあった公務員官舎は、一般競争入札で約9,300㎡の土地を46億円で取得した大手プレハブメーカーが、「15階建てのマンション2棟」と、「6階建ての商業ビル」を建てる計画を発表していた。戸建て中心のプレハブメーカーであっても、投資金額に見合うためには、中低層の街並みをつくろうという発想はなく、売上確保が急務な経営陣や株主にとっても、戸建て販売より手っ取り早い回収になるのだろう。そこには「人の暮らし、地域の繋がりを大切にしよう」という理念も感じられない。

 

このように中高層マンションが事業として成り立つエリアは、利便性が高くて土地の坪単価も高止まりしているところがほとんどだ。元々閑静な戸建て住宅地だったものが、勢い「土地の負担能力が全く違う」集合住宅が近隣に出来ると、戸建てに住む人たちの固定資産税は上昇し、相続時も含めて負担が増加する。近隣に賃貸で住む人たちも、新しく出来た分譲マンションが低金利の35年ローンで販売開始されると、賃貸から移り住む人たちも増えるだろう。こうして、中高層のマンションが建つことで、近隣は空き家、空室が増加し、地価上昇によって広い土地は分筆されて売り出され、周辺環境の悪化が繰り返されるだけだ。

 

画像は、県営住宅の建替えに民間活力利用のPFI事業を採用し、4社の提案の中から首都圏の大手商社を主幹事会社とした企業グループがプロジェクトを勝ち取った事例。周辺は第一種低層住居専用地域が中心の郊外型団地にも関わらず、第一期工事は「12階建てマンションと老健施設」、第二期工事で「10階建てマンションと保育施設、小売店舗」が建てられた。十数年前の審査の過程がインターネットで公開されていたが、審査員は「景観にも配慮し、経済性も優れた計画」だとお墨付きを与えていたプロジェクトだ。

 

実際に建物を見ると、外壁の傷みが激しく、スポット的に修繕された跡は見られるものの、建物を建設して引き渡して以降は住民負担で大規模修繕するのが当たり前と言わんばかりに、老朽化が進んでいた。大規模なマンションほど、エレベーターや機械式駐車場などの機械装置のメンテナンス費用や更新費用が莫大で、外壁の大規模修繕も、資産として残らない「足場代」がバカにならない。公有地ほど、もっと土地利用の将来の影響が熟考されるべきだろう。

外部に面した共用廊下の壁は、補修した跡はあるものの、劣化の激しさが感じられる。大規模修繕で建物全体の外壁塗装を実施してもいい状態になっている。

安佐南区の県営住宅建て替えでPFI事業を採用したマンション。近隣は低層住居専用地域で、このような中高層の大規模建築物はない地域だ。
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