第21話  プランブックとCM

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アメリカでは、日本の半分くらいのコストで住宅を建てられるという。最近では日本でも坪単価25万円の家があるくらいだから、全く同じ条件でなければ比較は困難だが、少なくとも収入に対して住宅購入に掛かるコストはアメリカのほうが少ないようだ。人件費の安い労働者を使っているのではなく、安くつくるシステムが普及しているためだ。

私がアメリカの住宅産業の視察に行ったのは八十年代の終わりなので、むこうの住宅産業に詳しいわけではない。しかし、米国の住宅産業に詳しい、NPO法人「住宅生産性研究会」の戸谷理事長や、複数の専門家の話しを聞くと、建築資材コストや技術者の賃金ではなく、システムの違いが大きいという結論になる。戸谷理事長は、建設省OBで「アメリカの家・日本の家」や、「アメリカの住宅生産」など、多数の著書もあるが、「サスティナブルハウス」という年収の3倍以内で建てられる長寿命の住宅生産システムを長年研究、実践している。

アメリカの住宅生産にはCPM(クリティカル・パス・メソッド)といった現場の工程管理手法など、さまざまな優れたマネジメントシステムがあるが、現場での生産性向上以外にも学ぶべきものが多い。そのひとつに『プランブック』が挙げられる。

プランブックとは、注文住宅用の設計プラン集で、アメリカでは数十ドル払えば一般の書店で入手できる。多くのアメリカ人に好まれる伝統的デザインのプランが多く、設計図書や仕様書なども揃っているため、気に入ったプランを選べば、後は施工業者に任せるだけでほぼ希望の住宅が出来上がる。自分たちの要望を伝え、イメージが湧かないまま設計を煮詰めていく日本の注文住宅設計とは随分異なっている。

日本の住宅雑誌には、建築家やデザイナーが個性を競った住宅の写真は多く掲載されている。しかし普通の人が年収の3倍程度で購入可能な、ベーシックなスタイルの住宅プランはあまり見られない。個性を生かし差別化をすればするほど、複雑で標準化の困難な住宅生産システムとなっているのが日本の住宅の現状だ。それが住宅コストの下がらない一因でもある。

アメリカが全てではないが、少なくとも郊外には非常に環境のいいところに、広いガレージを持った映画に出てくるような住宅が多い。それはプランブックに資するところも大きい。プランブックには、建築デザイナーがより多くの人に購入してもらえるよう、マーケティングに基づいた住宅プランが多数掲載されている。これは数多く売れることで建築デザイナーの収入も増える印税方式になっているためだ。しかも施工上の問題点や性能面なども少しずつフィードバックし、改善していくことで、施工の標準化や効率化も可能となっている。

アメリカの住宅産業と日本の大手住宅メーカーが行なっている規格住宅と根本的に違うのが、2×4というオープン工法(どこでも誰でも利用できる工法)があり、建具などの寸法も標準化されているため、省コストで建築できる点だ。住宅建設に大きな資本力も住宅展示場も、ましてや豪華なカタログも必要ない。資材の調達と工程・品質の管理、そして経営のマネジメントができる、住宅専門の経営者がいれば誰でも満足のいく家を建てることができる。

このように住宅建設に関わる総合的なマネジメントをアメリカでは「コンストラクションマネジメント」といっている。これも、工事の分離発注のみをとらえてCMと称している日本とは対照的だ。

●NPO法人 住宅生産性研究会のホームページ

アメリカの住宅生産
(戸谷英世著)
住まいの図書館出版局
プランブックの一例
リック・シンプソン設計
シンコーコーポレーション

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