第40話 職人気質
2003.08.25

今、『職人気質(かたぎ) 』というのが見直されているような気がする。
物議をかましたが、「ものつくり大学」も開校し、世界に誇れる日本の技能や技術力を高めていこうという動きは、製造業や建設業の中でも叫ばれている。技術力こそ、これまで日本が誇った強さの原点だろう。

私自身も職人の家(親父は石工職人で、石垣や庭石などの石積み職人の下積みから、土木請負の事業を興した)に育ったので、小さな頃から、「手に職を持て!」とよく親父に言われたものだ。自分は職人を目指さなかったが、職人に対しては親近感を持っている。

『職人』というと、左官や大工など、建設業のイメージが強いが、技術職の多くは職人のようなものだ。例えば、建築家と呼ばれる人たちや、プログラマーやWebデザイナー、テレビや映画のカメラマンなども一種の職人。極めていくと「職人芸」と呼ばれる。テレビで「匠」とか「鉄人」「仕事人」といわれる人たちは、まさに職人のなかの職人だ。

『職人気質』を大辞林(三省堂)で引くと、−「職人に多い気質。自分の技術に自信をもち、安易に妥協したり、金銭のために説を曲げたりしないで、納得できる仕事だけをするような傾向。」−とある。人によっては、気難しく頑固な人ということになる。

この『職人気質』がいいように作用すればよいが、扱いを間違うと大変なことになる。住宅の出来ばえは、やはり職人の技術ややる気に負うところはいまだに大きい。職人が気持ちよく、持っている技術を最大限に発揮させるのも、現場監督や施主の仕事でもある。

ただ、『職人気質』で最もネックなのが上記の「金銭のために説を曲げたり・・・」というところだろう。本当に仕事に誇りと哲学を持ってお金に左右されないようなプロフェッショナルであれば良いのだが、『時間=コスト』という感覚のない人が多いので困る。つまり、仕上がりの良し悪しではなく、仕事の拘束時間で自分の報酬を得ようとする人だ。

高い技能を持った人が、手際よくやっても、求める仕上げの精度によって時間を要するのであれば、皆さん納得して報酬を支払うだろう。しかし、要領の悪い職人や技能レベルが低いために余計に掛かった時間を費用として負担させられると、誰だって納得いかないだろう。

実は、住宅のコストが下がらないのはこのようなところが結構大きい。それは、工事現場の職人だけでなく、「職人気質」で仕事をしている設計事務所も同様だ。住宅に関して経験豊富でアイディアの引出しの多い設計者は、お客様の要望をまとめて短時間でプランニングが可能だ。
戸建て住宅であれば、よほど変わった要望でない限り、本来は数日で出来る業務だ。

ヨーロッパで、ルイ・ヴィトンのバックを購入する層は限られているが、同様にアメリカでもヨーロッパでも、建築家に自宅を設計してもらう人は、一部の富裕層だ。しかし、日本では女子大生がルイ・ヴィトンのバックを手にし、普通のサラリーマンでも建築家に家の設計をお願いするというようになりつつある。ファッションでいえば、オートクチュール(高級注文服)やプレタポルテ(高級既製服)のデザイナーがそこらにたくさん存在しているようなものだ。

自他共に認める建築家であれば、個人住宅に工事費の10%や15%支払うのはむしろ安いくらいだと思うが、そうでない多くの建築士が、『時間=コスト』という意識なしに、自分がかけた時間と労力を「芸術性の高い作品」のごとくお客様に負担させているのは大変気の毒に思ってしまう。彼らにとっては、『時間=コスト』ではなく、『時間をかけることがプロフィット(利益)』なのだ。次の仕事がないからと、ゆっくり仕事をする大工が日当を得ているのも同様だ。

弊社のサービスは、このような職人気質の良いところを生かし、悪い部分をマネジメントすることで、品質の良い住宅を安く供給することを目指している。相手もプロフェッショナルなので一朝一夕には行かないが、本人にとってもお客様にとっても大事なことだと思っている。なぜなら、初めて住宅を建てる施主や、意識の低い現場監督では大変難しいことだからだ。

ちなみに、このコラムで費やしている時間は、一週間のうち1時間から1時間半だ。
よく、「文章を考えるだけでも大変でしょう」と言われるが、ほとんど負担になっていない。
ノートパソコンひとつあれば、いつでも、どこにいようとコラムが書けるからだ。また独立前にお世話になった、リック工房の丸山社長(元積水ハウスのトップセールス)に、『時間=コスト』ということを徹底的に学ばされたことが、体に染み付いているからだろう。

それでも建てたい家
宮脇檀著
-新潮文庫-
コラムの第一回で紹介したタイトルの本。建築家の裏表についても、業界の重鎮が書いているので説得力がある。これから家を建てようという人に是非お薦めしたい一冊だ。

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