第63話 「予算」を聞かない家づくり
2013.08.20

 

 



日本では家づくりの相談がはじまると、ほとんどの場合「建築予算を聞く」ことからスタートする。実際に設計や施工をする側から考えると、予算を聞かなければ「建物の規模」も「グレード」も変わってくる。だから、プランをつくるためにも予算を掴んでからスタートしたいというのが本音だろう。しかし日本の施主は、建築に掛かるコストに対してほとんど予備知識はない。本人たちの方が「どのくらいの予算で建つのだろうか?」と聞きたくて情報収集しているのに、プロ側から先に予算を聞かれて面食らい、資金計画から勉強させられるというのが最近の傾向だ。

当社の話をして恐縮だが、私は施主から注文住宅の相談を受けて、予算を聞くことはまずない。年収も勤務先も聞かずに、まずはどのような家に住みたいのか、どのような問題解決をしたいのかを丁寧に聞いていく。施主が本来プロに伝えたいのは「このような暮らしをしたい」ということが先であって「この予算で出来る家はどの程度か?」を調べたいわけではないはずだ。だから私は予算や勤務先を聞かず、暮らし方を聴くところからスタートしている。

しかし通常はどこに行っても予算から聞かれるので、施主も「予算内で最大限できること」を模索し始める。だがこのような家づくりでは「その住宅会社の粗利(経費)の確保」が先に計算され、それ以上の提案は望めない。『暮らし』ではなく『予算』が優先されるのだ。よく予算や勤務先によって対応まで変わってしまうが、施主家族の暮らしではなく「施主のお金」に意識がフォーカスされている証拠だ。

建築会社からすれば、出来るだけ多くの予算を割いて家づくりをしてもらいたいというのが本音だ。
アフォーダブル(支払いが容易)な家よりも、借入限度額まで資金調達して家にお金を掛けて欲しいと考え、外部のFPなどを利用して、資金調達の相談まで応じているのが現実だろう。返済能力を把握して工事金額を決めていくので、会社にとっては確実に利益が見込め、安全性が高い契約となる。だからこそ、最初に予算を聴くことが重要視され、そのことに時間(人材)やお金が費やされるのが日本の家づくりだ。

しかしこのような『請負契約』を長く続けていると、工期を短縮したり、仕入れ先を見直すなどの「建築コスト圧縮」のインセンティブが社内に働かない。結局コストUP要因は、内容をチェックできない施主に転嫁されていく。電力会社の『総括原価方式』と同じで、掛かった原価はそのまま上乗せして請求されるため、CMに取り組んで工期短縮や利益の最大化への努力がどうしても疎かになる。なぜなら職人や仕入れ先を指導しコントロールするよりも、素人の施主と交渉し、多くの予算を出させるのに注力する方が楽で売上げも大きくなるからだ。契約まで全力投球しても、施工にCMやCPMを取り入れる工務店が日本に少ないのは、このようなところにも大きな原因があるのだろう。

米国の場合は、施主の支払い能力によってプランや見積を恣意的に変えていくのではなく、ターゲット層の平均年収によって販売価格が決まってくる。その中で最大の利益を出そうとすれば、工期の短縮や仕入れ先の吟味など、CMやCPMに取り組むインセンティブがおきやすい。もちろん安普請につくれば購入者に選ばれず、そもそも造り手の「ホームビルダー」と販売する「不動産エージェント」は組織も収益も別なので、それぞれが利益の最大化を目指せば、効率を重視して標準化や単純化は欠かせない。

日本では工務店自らが「販売(=営業)」から「実施設計」「工事請負」まで行い、個人の懐具合を聞いて価格を調整する。だから工期短縮やコスト削減がおざなりとなり、ハウスメーカーと比較して次第に競争力を失っていくのだ。

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ダブルスネットワーク(株) 代表取締役 若本修治(中小企業診断士)


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