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若本修治の住宅コラム

2017.6.20 第133話

35年間持続可能な「抵当」とは・・・。

戦後の日本は、様々な法律や制度を欧米先進国に学び、安全で安定した社会と経済成長を実現してきた。住宅取得に関しても、一般の国民が限られた収入の中で家を購入しやすいように住宅金融公庫が設立され、個人にも長期のローンが実行されるようになった。高度成長期の日本は、毎年物価が上昇する「インフレ」が当たり前で賃金も毎年上昇し、長期のローンを組んでも、実質的な返済の負担は減っていく社会が続いた。「住宅双六」という、住宅のステップ・アップが通用した時代だった。

 

それが成立した背景は①終身雇用制度、②年功序列の賃金、そして③右肩上がりの賃金カーブという、『日本独自の雇用環境』と、人口増加や都市への人口流入によってもたらされた『土地神話』に他ならない。住宅ローンも20年程度の返済期限から、木造でも35年返済が可能となり、「ステップ償還」という、当初の返済期間は低金利の住宅ローンも登場した。しかし、バブル崩壊以降に実行されたそのステップ償還は、多くの返済不能事故を起こし、とうとう住宅金融公庫もその役割を終えた。今はその頃よりもはるかに状況は悪化し、日本で好転する兆しはもはやない。

 

35年後も価値が続く確実なものとは

 

雇用の流動性が高く、高い給与を得ているアッパーミドルや多くの資産を持つ富裕層が、いつ首切りに遭い所有資産が紙クズになるか分からないアメリカ社会では、長期の返済の担保として確実なのはやはり不動産となる。むろん住宅ローンであれば、「等価交換したもの(=住宅)」が抵当になるのが当然だが、お金を貸す時点で融資する金融機関が本当に正しい市場価値があるのか査定するだけでなく、融資の全期間を通じて、返済不能の事態になった時に抵当を処分すれば、少なくとも貸したお金の価値は戻ってくるのはプロとしてごく当たり前だ。

米国オレゴン州ポートランド市郊外で分譲中のモデルホーム。大きな樹は残し、サイドウォークで歩車分離を図るなど、建物の周辺環境にも魅力を高めることで資産価値を上げている。

 

そのために、お金を貸す前の不動産鑑定評価(アプレイザル)はプロに依頼し、建物自体の詳細調査(インスペクション)もその道のプロを雇って評価するのは当然だろう。そしてその住宅が建つロケーションによって、住宅の資産価値が上昇することに多くのプロがコミットメントすることで、それぞれが事業者としての利益も最大化できるからこそ住宅の資産価値を上げることへのインセンティブが、個人だけでなく業界にも共有される。住宅の資産価値上昇によって、固定資産税の増加だけでなく、資産価値上昇による富裕層の増加は、自治体にとってもプラス要素だ。

 

未だに日本の住宅ローンは『個人の属性』(=勤務先や年収など「今現在」の返済能力)によって融資が決定される。すでに日本の労働環境は大きく変わり、大企業勤務や公務員であっても、いつ組織が無くなり、本人がリストラされ、転職や起業をするか分からない時代になっている。将来の返済能力が全く見通せない時代に、現在の年収の5~6倍も貸出していて、ローンが破たんする確率が高まっているのは金融機関自身がよく分かっているはずだろう。融資対象ではない土地の担保や本人の団信保険、保証料まで負担させても、肝心な抵当の価値はだれも査定することなく、下がっていくことに何らコミットメントも出来ない状態が「異常」だと、そろそろ分かって来てもおかしくない。

 

「個人の属性」だけで35年間も低金利のローンを貸すこと自体、どう考えてももう成立しない。一次取得層である三十代の非正規雇用者が増え、空き家率の増加にあって、もはや賃貸住宅の経営も行き詰る。そしてIT企業やネット通販企業などが、仮想通貨でキャッシュが不要な「フィンテック」が加速化する時代に、日本の住宅金融もアメリカ型に大きく変革せざるを得ないのではないだろうか?

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