2018.2.20 第140話
『容積率緩和』は街の活性化に繋がるのか?
長らく続いた地価の下落と、日銀のゼロ金利政策の継続、そして「地方創生」の掛け声によって、相対的に割安になった地方の政令指定都市に不動産マネーが流入してくるようになった。海外からの観光客の増加もあり、ビジネスホテルやシティホテル不足も顕著になっている。高度成長期に建てられた都心部のビルも耐震強度不足などの老朽化で建て替えサイクルに入っており、地方自治体も新たな都心活性化プラン、立地適正化計画などを策定、都市計画の見直しによって街の活性化を図ろうとしている。
一方で、地方都市では少子高齢化や人口減少により、生産年齢人口が減り、県内需要の伸びは期待できない。インバウンドなども「水もの」であり、実際中国からの“爆買い”は数年で潮が引くように鎮静化した。土地やビルを所有する個人や法人にとっては、現在の中小ビルの建て替えによって明るい未来が描けないのが現実だろう。だから不動産投資マネーが流入している今のうちに高く売り抜くか、建物を解体し、暫定利用のコインパーキングが増えている。
それでは街の活性化に繋がらず、大規模な自然災害のリスクも軽減されない。そこで幹線道路に面した土地を中心として“容積率緩和”というインセンティブによって、大都市圏からの不動産マネー、不動産ファンドを誘引しようという動きが自治体で進んでいる。現在の中小ビルのオーナーによる建替えを期待するのではなく、建物の大規模化・高層化、テナント面積の増床によって、福岡市や岡山市などと比べて割高な広島市の地価のデメリットを消そうということらしい。高層化出来れば収益性は高くなる。
オフィスビル2003年問題の再現?
容積率の緩和は、投資する側にとってはより多くの収入が見込めるから、投資を決める際のインセンティブになり得るだろう。しかしあくまでも“数字上”でリターンが大きく見えるだけ。設計事務所やゼネコン、金融機関にとっての投資額増加はそのままプラスになるものの、賃料収入で建設費を返していく建物オーナーにとっては、高い稼働率が続くような需要があるかどうかが問題になる。「分譲マンション」であれば、契約さえできれば建築費は回収できるが、「ホテル」や「テナントビル」は、高い稼働率や入居率が数十年も続かない限り、投資は回収できない。容積率の緩和は近隣の競合施設にも同じチャンスが与えられるから、床面積や高さなど、規模を競うよりも、入居者から選んでもらえるような特色、魅力にお金を投じたほうがいいだろう。
そうでなれば、容積率を緩和することで、建物の規模や高さが今以上にバラバラになるだけで、都市景観は崩れ、人気のあるテナントビルと、空きテナントが埋まらないビルがまだら模様となる懸念も出てくる。減価償却が終わった古いビルは、テナント料を引き下げて対抗するだろう。容積率緩和という“供給を増やす”政策は、それ以上の需要があり、今後も高まる時にのみ、資産効果と賃料の安定が見込めるが、結果として需給バランスを崩す容積率緩和は、自治体にとっても税収の増加にはつながらず、周辺の既存の中小ビルオーナーの収益性悪化と都市景観の醜悪化、空きテナントや空きビルの増加をもたらすだけでなく、建設投資自体も地元のゼネコン・建設会社に落ちず、地域の外に流出する可能性が高いだろう。身の丈の投資、需要予測に基づく堅実なプロジェクトのほうが、地元企業が参画し易く、地元が潤うことに繋がり易いのではないだろうか?
地元企業のマツダも、バブルの頃トヨタなど巨大企業を真似て販売チャネルや車種を増やした。
その結果経営は傾き、外資系の傘下に入ったが、身の丈の経営に戻り独自技術を磨いたからこそ新たな地位を築いた。都市経営も同じだ。