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若本修治の住宅コラム

2002.11.05 第1話

それでも建てたい家

数年前、六十代前半で亡くなった建築家の宮脇檀さん。生涯、住宅設計にこだわり続け、数々の受賞歴やコンペの審査員などで住宅設計の専門家では知らない人がいない存在。新潮文庫からタイトルの「それでも建てたい家」という文庫本が出版されている。

 

私と宮脇先生との出会いは、およそ20年前の学生時代。福岡大学の建築学科に在籍していた私は、建築家を目指し、住宅関連の雑誌の中から宮脇檀さん、林雅子さん(故人)、槙文彦さん、星野厚雄さんなど、数名の建築家を手本としながら勉強をしていた(?)。当時の建築家協会が募集した夏休みのインターンシップに応募し、九州大学の学生とともに2週間ほど、代官山にある「宮脇檀建築研究室」にお世話になった。このときの話は別の機会に譲るとして、標題の「それでも建てたい家」という書籍は、最近アマゾンドットコムで新刊本を検索していたときに見つけ、ついでに購入した本だった。

 

この本に出てくるのは、天下の宮脇先生に住宅設計を頼んだ施主の奥様たち。スクラップブックを集め、自分の希望を主張するつわものの奥様たちと、入居後ご自宅を訪ねた宮脇先生の評価が面白い。あれだけ著名で住宅設計を多く手掛けた先生でも、わがままなお客様に押し切られたり、当初予定していたものとは全く違う部屋の使い方をされていたり、はたまた住宅が出来てみて自らの失敗を認めたりと、実際の事例が数多く書かれ、こちらも思わず共感する。

 

私は、宮脇先生とお会いしたことで、建築家という職業をあきらめ、大学卒業後、店舗の企画設計・施工を行なう中堅企業、株式会社布谷(ぬのたに)に入社した。建築物それ自体を設計する建築家ではなく、人々が集い賑わう空間を創りたかったからだ。商業施設は、建築物が主役ではなく、人や商品が主役で建築やインテリアは要素でしかない。


入社早々、千葉市の稲毛に開発中のジャスコ(現イオングループ)のショッピングセンターの新築工事に駆り出された。その後も東京周辺のショッピングセンターや駅ビル、川崎地下街など、数多くの店舗・モールなどの新装・リニューアルに立ち会った。

 

布谷という会社も、社長の友人の建築家、安藤忠雄さんから紹介されたアメリカの気鋭の建築家「ピーターアイゼンマン」が設計した東京支社ビルの投資も重荷になったのか、2000年秋倒産した。雑誌「新建築」などでも取り上げられた業界話題のビルも、社員にはすこぶる評判が悪く、倒産よりもずっと以前、数年使っただけで廃墟となった。

 

私が、この住宅CMサービスを開始するに当たって肝に銘じていることは、「家は住む人が主役」ということ。建て主と専門家をつなぐプロデューサーとしての役割は担うものの、プロデューサーも建築家も裏方でいい。建築家のコンペサイトが話題になっているが、建築家の実験的な作品の実現を、施主に費用負担させているような抵抗感もある。


宮脇先生でさえ、数多くの失敗を重ね住宅設計の方法論を構築していた。「ユニクロ」や「無印良品」のように、デザイナー個人の顔や主張は見えないが、おしゃれ感やセンスの感じられるデザインのものを廉価で購入できるような、そんなサービスを目指したい。

バブル経済の頃勤務していた(株)布谷のテレホンカード。家具工場と社員寮があった江戸川区の社有地に建てられたピーター・アイゼンマン設計のNCビル模型写真。

建築業界では有名な雑誌『新建築』。現代の建築家シリーズの第一回目が宮脇檀さんだった。安藤忠雄氏や黒川紀章氏を差し置いて、住宅建築では人気建築家だった。
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