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若本修治の住宅コラム

2003.3.24 第20話

マイナスイオン効果

今回は、世間でもいろいろと話題になっている『マイナスイオン』について考えてみたい。というのも、つい先日インテリア産業協会中国支部のフォーラムで、マイナスイオンの話を詳しく聞いたからだ。テレビ「発掘!あるある大事典」で特集をしていたのを見たので何となくは理解していたが、今回の話でだいぶ理解が進んだ。

フォーラムの基調講演は、この分野の第一人者と紹介された、菅原明子さん。東京大学医学部免疫学教室で博士課程を修了した才女だ。マイナスイオンというと、まだ解明されていない部分も多く、便乗商品も多いのでうさんくさい感じがしないでもない。しかし菅原さんの話はなるほどと納得させられるものだった。

化学の分野では「閉鎖系」と呼ばれる、試験室の中やガラスのシャーレの中だけで行なわれたデータがカタログになることも少なくない。しかし、マイナスイオンは刻々と変わる自然環境の中で発生するものなので、試験データは当てにならない。「開放系」と呼ばれる、普段生活している場面で最低でも四季を通じた試験データがなければ、効能を判断できないというのが菅原さんのスタンスだ。

ある研究熱心な住宅会社が、マイナスイオンを発生させる建材を開発し、第一人者の菅原さんにお墨付きをもらいに来たときのこと。マイナスイオンは住宅の健康被害で問題となっているホルムアルデヒド対策にも効果があると言われており、お墨付きをもらうことで他社との差別化を図ろうという目論見だ。測定器で測ると確かにマイナスイオンは出ている。しかし住まいに利用するとなるといろいろな条件が重なるので、必ずしもマイナスイオン効果を謳えるかというと疑問が残るところ。そこで、菅原さんは1年間の実証実験をすることを条件とした。

社員などに協力してもらい、マイナスイオン効果があるというその建物に実際に5つの家族が住んでみて、日々のマイナスイオンや湿度などのデータを取っていった。すると季節によってマイナスイオン数にかなりの差が出ることが分かった。春から夏にかけての湿気の多い時期には、プラスイオンのほうが多くなっていたのだ。

プラスイオンのほうが多いと、ものが腐りやすくなり、カビやダニの発生も増えることが筑波の研究機関のデータでも明らかになっているという。従って、梅雨のじめじめしているときにこそマイナスイオン効果が重要で、その時期にマイナスイオンが優位になっていない建物では、消費者に『マイナスイオン効果の高い住宅』と訴求することは出来ない。その住宅会社は、カタログやパンフレットまで準備し、将来はフランチャイズで加盟店を募る計画もあったらしいが、菅原さんのお墨付きが得られなかったため、その計画は断念した。

菅原さんの実証データでは、コンクリートの躯体にビニールクロス貼りをした建物では、夏は90%を越える湿度となり、逆に冬は20%程度になったという。室内に無垢の木や左官材料など、調湿効果のある仕上げをすると、一年中52%から59%で安定した湿度データを得ている。このとき、室内のイオンバランスを測定すると、湿度とマイナスイオンの数に相関関係が見られたそうだ。

湿度は高いとO157などの食中毒、低いとインフルエンザなどのウィルスの発生率が高くなり、家族の健康にも目に見えない影響を及ぼしている。室内で使われる建材でこれほどの差が出ることは、私自身も大変勉強になった。木や和紙、左官材料などの自然素材は、情緒的な好き嫌いだけでなく、科学的にも健康に大きな影響を与えることが次第に明らかになっている。

フォーラムでは、塗料メーカーや繊維メーカーの研究者も、自社の開発したマイナスイオン効果のある素材を発表した。化学の力を利用して人工的に作られたものが、単にマイナスイオンの発生数だけで評価できるのか活発な議論が行なわれた。それは、偏った食生活によって不足する栄養分をサプリメント(健康補助食品)から摂取しようとしている現代人そのもので、それを商売に結び付けようとする企業と、それに踊らされる消費者の悲しい性(さが)を感じずにいられなかった。

データの揃う化学を信じるか、はたまた自然から学んだ先人の知恵を信じるか・・・。

●菅原研究所のホームページ

広島の安田女子大学教授に協力して頂き、学生たちも手伝って新築お引き渡し時にマイナスイオン測定を行った。
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