2003.12.01 第54話
お客様の声
すべてのビジネスは、お客さんがお金を支払ってくれて初めて成立する。どんな立派な理念があろうと、最先端の技術であろうと、資本金が大きかろうと、商品やサービスの対価としてお金を払う人がいなければ、そのうち行き詰まってしまう。
だから、営利目的で事業を行なっている限りは、『お客様の声』に敏感にならなければならない。しかし、多くの企業がお客様の声を集める仕組みを持っていない。何を隠そう弊社もつい最近まで『お客様の声』を集める仕組みを持っていなかった。
先般、住宅に関するマーケティング調査を行なった。主婦モニター8名に集まっていただき、グループインタビュー形式で、現在の住まいに対する不満や最近の住宅に関して、消費者の声を聞こうというものだ。このたびは賃貸住宅にお住まいの4名と戸建て住宅にお住まいの4名に参加いただいた。
まずは、現在の住まいに対する不満だが、ほとんどの方が「湿気」と「部屋の明るさ」、そして「掃除や片付け」に関する不満だった。部屋の明るさ以外はその住宅に住んでみないと分からないことがほとんどだ。しかしプロであればほとんど設計段階でクリアできる問題で施工に関する問題は意外と少なかった。
しかし実際に、住宅を購入すると決断したお客様は様子が少し異なる。
プランには納得して契約しているものの、契約前後から営業担当者の説明に食い違いを感じ始め、着工から数ヶ月間、本当に自分が依頼した建物がちゃんと建つのだろうかと、期待より不安の方が圧倒的に大きくなる。
やはり先日、ある全国チェーンの住宅会社で注文住宅を建てることになったお客さんから相談を受けた。弊社取引先の取締役でもあり、たまたま打ち合わせにうかがったときに住宅の話になった。その方は、私を法人向けのコンサルタントだと思い込んでいた(事実当サービスを始めるまでは、個人相手のサービスはしたことがなかった)ため、住宅業界への不信感を聞かされ、弊社のインスペクションサービス(工事中の第三者による検査)をご利用いただいた。
基礎配筋の検査と、上棟後の躯体検査の2回のみ行ったが、大変感謝された。通常は、住宅会社に設計施工一括で契約しているため検査(あくまで社内検査)は工事費に含まれるが、別途検査料を支払ってでも、外部の検査によって得られた安心は大きかったようだ。詳しくは今後ホームページ上で『お客様の声』のページを追加していく予定だ。
弊社のサービスは一般消費者には少し分かりづらいようだ。だから、実際にサービスを受けたものでなければ「こんなサービスがあって良かった」と実感していただけないのが残念でならない。最近、弊社のサービスの「何が強みか?」を考えてみた。ずばり、私自身が建築の実務を経験した法人向けの経営コンサルタントとして、300社を超える住宅会社の経営者と接してきて、お客様の要望や不安を直接経営トップに伝え、改善させる力だと分かった。
住宅業界は、これまでほとんどの会社が『お客様の声』を黙殺してきた。
他の業界では一度商品やサービスを購入していただいたら、多くの場合次回も購入してもらえる可能性がある。だから、『顧客満足度』を高める努力をしているが、住宅業界は『新規見込み客』を集めることに最大限の努力とコストを投入している。一度お金を払ったお客様が次回もその会社にお金を払ってくれる機会はほとんど期待できないから、そちらには努力もコストも割こうとしない。
当然、社員もそのことが分かっているから、契約までは大変熱心に要望を聞き、きめ細かい対応をするが、いざ現場に入ると様子が変わって施主の方が不安になる。建築の知識のない施主がインターネットで調べて知識武装しようとも、不安を「責任者」まで伝えるにはかなりのハードルがある。相当血相を変えて怒鳴りつけなければ会社幹部や経営者は出てこないだろう。
弊社のサービスは、競争見積でコストを下げるとか、設計と施工を分離することでデザインや性能の良い住宅をつくるという「表向きのメリット」より、私自身が施主の代理人として、
直接工務店や住宅会社の社長と交渉し、お客様の声を伝えることができるという「目に見えないメリット」のほうが、本当は大きな価値だと最近気づいた。
施主が直接、担当者に価格や品質に対して交渉するのと、住宅業界の表裏を知っている私が、直接トップに掛け合い、「私が責任持って引渡しまでチェックするお客様です。」と見積書や工事現場の検査を行なうのとで、どちらの住宅の品質が高くなるだろうか・・・。そしてどちらがシビアなコストで建設できるだろうか?少なくとも「予算が限られていたから・・・」といったごまかしは通用しない。
だから・・・
私自身が経営者に進言できないような住宅メーカーはサービスの対象としていない。
一見、住宅メーカーのほうが安心を提供できそうだが、プロから見てもブラックボックスで、何かあったときに全く責任が持てない。このような会社は、『お客様の声』(消費者の声)が上部に届く仕組みになっていないのは私自身が良く知っているからだ。