2011.10.10 第65話
施主から求められる『インフォームドコンセント』
医療の世界を中心に、『インフォームドコンセント』や『セカンドオピニオン』といった言葉が広がりつつある。
『インフォームドコンセント』とは説明を受けたうえでの同意を意味し、『セカンドオピニオン』とは主治医以外の医師の意見を聞くといったときに使われる。
以前であれば、不治の病も多くあり、自分や家族の命も主治医に任せるしかなかった。それほど、医師という存在は全幅の信頼を寄せられていた。しかし、医療事故が増え、そのずさんな管理体制が明らかになってくるにつれ、医者も万能ではないということが分かってきた。
これまで一方的に医者のことばを鵜呑みにしていた患者たちが、専門用語ではなく、自分たちにもわかりやすい言葉で、きちんと症状を伝えて欲しいと言いはじめた。そして、主治医以外の第三者の専門家からも意見を聞き、自分たちで判断材料を探すようになってきた。
住宅においても同様だ。このような横文字はあまり使われないが、耐震偽装などもあり一級建築士の「先生」もすべてを任せられる存在ではないということを一般消費者もうすうす感じ始めている。やはり、あいまいな部分を無くし、きちんと詳細説明した上で同意を得るように求められている。
しかし、一般の消費者が『セカンドオピニオン』を求めるのは案外容易ではない。回りを見渡せば必ずゼネコンや建材屋さんなど、建築に関連する仕事についている友人・知人は結構いるはずだ。しかし、住宅は知れば知るほど奥が深く、ビルしか手掛けていない現場所長には木造住宅について詳しく語る知識はない。
奮起して家を建てようと決心した人に、不安を煽るようなアドバイスや噂を吹き込む業界人も少なくない。自分たちのやっていることは棚に上げて、いや自分達がやっているからこそ、敵さんのやり方が手に取るように分かり、あわよくばキャンセルさせて自分がその仕事に関与したいと画策する輩もいるだろう。
私のところにも土地の契約をしたが不安になったなどと相談に来る方が数多くいる。「広島地区限定」としているにも関わらず、北海道や九州からもメールで相談が届いたりする。皆さん大きな買い物なので真剣だが、契約直後に急に不安になるケースが多いようだ。
インターネットの急速な普及で、消費者は情報収集だけでなく、情報発信も積極的にしはじめた。ブログやSNSなどで、建築日誌を書き込んだり、住宅会社の評判を書き込む掲示板なども数多く存在する。
専門家が介在して解説を加えたり、的外れな議論にならないよう軌道修正できればいいが、その多くが「主観に基づく思い込み」や、「匿名性を隠れ蓑にした誹謗中傷や売込み」だったりするので、消費者は余計に混乱してしまう。
この混乱が、実際の家づくりの商談の場に持ち込まれ、プロ側が困惑することも少なくない。プロとしての知識や経験を素直に聞いてくれる消費者ばかりではなく、にわか知識で施工者の言葉を疑う人たちもいるので、施工者や設計者とは利害の少ない専門家によるサポートが今求められている。余計なトラブルに発展しないために、施主の要望を一方的に聞くのではなく、施主が自ら意思決定するための「選択肢」と「判断材料」の提供が大切だ。
今、私はそんな専門家によるサービスを運営しているが、本当に今の施主の不安や住宅業界の対応が良く分かる。
今後この紙面で具体的な事例として紹介していきたい。