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若本修治の住宅コラム

2012.2.10 第69話

日本で一番多く建てられた住宅デザインは・・・。

欧米の住宅地の話をし、輸入住宅で建てられた住宅地を見ると、在来木造を手掛けている工務店の人たちの口からは「ここは日本なので、日本の気候風土に合った軸組み工法の家のほうがいい」といった言葉がよく聞かれる。確かに住宅の外観デザインは、その国や地域の歴史文化や気候風土の中で醸成され、その地域の風景をつくってきたのは間違いないだろう。しかし、その人たちが建てている住宅が日本の歴史文化や気候風土を生かした家づくりになっているかどうか、疑問に感じることも少なくない。

 

一括りに『輸入住宅』といっても、やはり国や地域によって、あるいはデザイン様式によって外観イメージは大きく異なっている。それぞれの住宅のデザインは、その地域に住む多くの人たちから愛され、50年以上経っても同じエリアに数多く残っているものが、その地域の歴史や気候風土に合致しているといえよう。それは、決して貴族の館や豪商のお屋敷のように、庶民の手には届かない特権階級の豪邸ではなく、一般の住民が普通に暮らしているその地域に数多くみられる「風景の一部」のような住宅だ。

 

それが、エーゲ海や地中海沿岸、北欧などの景色をつくり、その町並みの美しさが観光地として脚光を浴びて、そこに建つ住宅のデザインが憧れの住宅として日本でも紹介されてきた。しかし、あくまでそこにある気候風土や自然が「ヴァナキュラー(土着)な住宅」を生み、全体として調和のとれた情緒ある町並みだからこそ美しく感じるのだ。

 

その影響を受けてつくられた『プロバンス風』や『サンタフェ風』『スカンジナビア風』といった輸入住宅を日本の風景の中に1棟だけ建てても調和がなく、アンバランスに感じることは否定できない。移民の国アメリカの住宅地がそうであるように、色々な国、様々な様式の住宅デザインを採用する場合、そこに建つ住宅の外観に調和するように、周りの景観までつくるといったことさえ必要かも知れない。建物単体では決して地域の風景は変えられない。

 

では、軸組を中心とした日本の工務店がイメージしている日本独自のデザインやテイストはどのようなものだろうか?書院造や数寄屋建築がイメージされるが、決して庶民が建てて、地域に数多く残っている住宅ではない。全国津々浦々、一番多く建てられたのは、やはり写真のような『入母屋造り』の民家だろう。しかし日本国中で建てられた入母屋の住宅は、住宅展示場にないばかりか、一部の田舎を除いて今や日本全国で建てている工務店はほとんど存在しない。「日本の気候風土や歴史文化」をいうならば、現代の技術を取り入れながら、入母屋という伝統的なデザインにこだわる工務店があっても良さそうなものだ。

 

多くの人に愛され、長年残ってきた建物の形態には、やはり理由がある。よく観察してみると、自然災害が多く、夏は蒸し暑く冬は厳しい寒さのある日本の気候風土の中で培われてきた『パッシブデザイン』になっている。実際に多くの入母屋の家は「桁行方向」が東西に長く延び、南面に大きな開口部を取って広縁と二間続きの和室が繋がっている。日射角度の低い冬の太陽の熱を、広縁の縁甲板や畳、障子などに蓄熱させ、夏は長く延びた軒で太陽光を遮って、南北に風が通り抜けやすい開放的な間取りが特徴だ。

 

一方、東西の入母屋屋根は、小屋組みの「母屋」を隠す大きな破風や寄棟になっている下屋部分が長時間日射を受ける妻側の外壁面積を最小化している。西側に仏間や床の間、押入れを設けることで、西日を室内に入れず、室内への西日の影響を最小限にするデザインになっているのだ。しかし今、日本で建てられている和風住宅や和洋折衷の住宅では、ほとんど先人のノウハウが生かされていない。

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