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若本修治の住宅コラム

2015.4.20 第107話

日米の建築コストと「現場環境」の違い

日本とアメリカの住宅建築コストに大きな差があると言われて久しい。もちろん為替の変動で円高に振れればアメリカの建築費が「計算上割安になる」という単純な話ではなく、購買力平均から考えて、日本の住宅建築コストが相対的に高くなっている。もちろんこのマガジンの読者は『現場の労働生産性の違い』が建築コストに大きな影響を与えていることは百も承知だろう。しかし実際にアメリカで建築中の現場を視察してみても、働く職人たちの労働生産性以外に建築コストを上げている「ムダ」や「違い」が数多く存在するように感じる。

 

まずは工事中の現場での生産性の違いを考えてみよう。職人自体の作業スピードにはそれほど大きな差はないように感じる。しかし米国は間取りが「オープンプランニング」で部屋が広く、工事の早い段階で階段下地ができ床もフラットなので作業スペースが広く、搬入等もスムーズにでき作業効率は高まるだろう。階段や床は分厚い構造用合板やOSBで安定性があり、基本的にカーペット等の仕上げ材を張るまでは養生も不要なので、日本のように大工が養生や断熱材の挿入、プラスターボード張りなど、「大工工事」以外の作業に手を取られることも少ないようだ。

 

現場の環境と間接コスト

 

工事中の現場では、賃金の高い職人が、より有効に時間を使えるように、作業性を高める環境を用意するということが重要だ。また賃金が低くても出来る作業を、賃金の高い大工にさせていることはまだまだ改善の余地があるだろう。しかし日本では建物内部の「狭さ」によって作業性が低くなっているとともに、敷地周辺も狭いことで、資材搬入に影響が出たり、過剰な安全対策で仮設資材が過分に必要だということも少なくない。原則、日本の注文住宅では1つの街区で1社が「複数の現場」を同時に抱えて、効率よく作業するということはほとんどなく、隣は別のハウスメーカーや工務店が施工しているから、それぞれの現場ごとに仮設トイレや仮設資材、材料の運搬などが手配される。

 

年間にまとまった数の発注量があることよりも、同じ場所に複数の現場があって、同時に発注するほうが、メーカーとしては「数量割引」を適用しやすい。物件ごとにお客さんの好みを聞いてショールームでパーツ(オプション)一つ一つを確認していたら、容易には安く提供できない。現場を管理する建築スタッフも、ひとつの場所に複数の現場があれば、もちろん間接コストを落とすことも可能だ。

 

建材メーカーでいえば、ショールームでの接客サービスだけでなく、毎年改定する分厚いカタログのコストやそれを持参するルートセールスの営業マンなども、工務店の「差別化」や施主の「わがまま」で過剰ともいえるサービスを求められている。また商社や卸、販売店の中で、必ずしも住宅購入者が負担する住宅の構成要素に何ら価値を提供していなくても商習慣上マージンを得ている業者も少なくない。このような建材流通上のロスや手間が部材コストを押し上げ、間接的に建築コストのアップに繋がっている。

 

さらに日本のように1軒1軒が『オーダー住宅』で、全ての原価を積み上げて「この金額でいかがですか?」と営業が自宅まで訪問していれば、その手間や人件費を考えても、コストが下がるはずがない。しかも数多くの商談をして、その過半数以上が契約できない日本の住宅営業の実態を見ているとなおさらだ。つまり建物単体の「労働生産性」以上に、敷地や建物の大きさ、住宅の供給方式の違い、そして販売方法の差によって、建築コストが膨らんでいる。そのコスト分で、広い敷地が買えれば生産性も上がるだろう。だから、コストの面においても土地と建物は不可分だ。

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