2017.5.20 第132話
空き家問題とアパート建築ラッシュ。
日銀のマイナス金利も1年が経過し、金融緩和による低金利の影響は、一戸建て住宅よりもアパート建築ラッシュに拍車をかけているようだ。大手ハウスメーカーの業績をみても、賃貸住宅建設が二ケタ増という企業が多く、一戸建ても今や4階建て、5階建てのビルをプレハブメーカーが住宅展示場に出展する時代になって来た。もはや人口減少や空き家の増加、手頃で良好な土地不足もあって、一般個人を相手に子育て世代を中心とした中間層向けの戸建て住宅は、大手にとって採算が合わなくなって来たのだろう。
巨大台風や大地震、ゲリラ豪雨などの自然災害だけでなく、糸魚川で発生した大火災など、技術立国を誇るはずの日本で、未だに多くの住宅が被災し、避難先の仮設住宅から戻れない家族が多数残されている状況を見ると、国や自治体だけでなく、日本の住宅業界が何を守って来たのか疑問に思うことも今や少なくない。景観だけでなく、防災や防犯も含めて、街全体のことは考えず、とにかく自分の利益になることのみを求め、住宅建設を進めた結果が今の日本の街並みをつくり、災害に弱く避難が困難な街を作っている。さらに現在から未来への人口動態や住宅数の充足具合を考慮し将来を予測することなく、行政が住宅の供給をコントロールしないから、空き家の大量発生や子育て支援施設の不足など、多くの社会問題の発生を許している。
需給バランスを考えた住宅供給
私が住む広島市の郊外でも、まだ山を切り開いて高台に住宅地が分譲されている。本来であれば低層の戸建て住宅が並ぶ閑静な住宅地になるはずが、それではデベロッパーが開発資金を容易に回収できないから、巨大なショッピングセンターや物流基地なども誘致され、そこで働くパートやアルバイトのための賃貸住宅建設も進んでいる。ある大手ハウスメーカーは、三階建ての高級賃貸住宅を開発し、横ばいの戸建て住宅を尻目に、賃貸部門は二ケタ増の売上を見込んでいるという。一般の個人オーナーに見せるためか、子会社が土地を所有してモデルとなる高級アパートを建設、別の不動産子会社が管理と入居者募集を担っていた。
いかに相続税対策といえど、個人の土地オーナーにとっては“エレベーターなし”の三階建て賃貸住宅は投資リスクが高いから、まずは自社での賃貸経営に踏み切ったと予想されるが、長らく「入居者募集中」が続いている。恐らく周辺に比べて賃料が割高に設定され、ヘタすると新築を建てて35年の住宅ローンを返済するのと家賃が変わらないのかも知れない。入居者にとって、上場企業が賃貸経営をしていること自体、何ら高い家賃の理由にはならない。それでも戸建て住宅のように総合展示場にモデルハウスを建設し、販売も賃貸も出来ないまま経費ばかり掛かり、最終的に建築廃材にするよりも、よほど投資効果が高く、営業的にプラスになるのだろう。しかし自ら経営してみると入居者の声もダイレクトに届き、自社の顧客となる不動産オーナーの苦悩も体験できるのではないだろうか?
もはや一次取得層で、親や祖父母の援助なしに一戸建て住宅を建設できる中間層は先細り、住宅展示場や多大な広告宣伝費、多くの営業ロスの負担を建設費に上乗せするようなハウスメーカーの売り方は通用しなくなってくる。賃貸住宅や非住宅、そしてリフォームが大手ハウスメーカーの中心事業になっていくだろう。しかし相続税対策は増え続け、離婚や死別を含めた「単身世帯」も減ることはなく、良質な賃貸はまだまだ旺盛な需要が続きそうだ。販売に掛かる多大な経費を抑えて、建設後も収益が得られる賃貸住宅の営業と建設は、大手ハウスメーカーに任せ、戸建て住宅は地元の工務店が担うという棲み分けが出来てもいい。自治体には、人口動態に沿った住宅供給計画を望みたい。