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若本修治の住宅コラム

2018.5.20 第143話

住宅取得が「投資」の国と「耐久消費財」の国

2019年10月に消費税が8%から10%に上がるのに伴い、政府では住宅や自動車の減税拡充を検討しているようだ。消費税増税前の駆け込み需要(=消費の先食い)によって、増税後にその反動による「買え控え」の発生が予測され、その対策として検討されているのが減税の拡充。仮に建築価格が2千万円だったとして、2%は40万円の負担増になるから、間に合えば“増税前に建ててしまおう”というのが駆け込み需要だ。住宅業界も「今が建て時!」と来年4月までの契約に向け、営業攻勢を準備している。

 

日本では、このように消費増税が上がるたびに「駆け込み需要」が発生し、その後「反動による買え控え」も生じている。本来、景気も為替も“安定”しているほうが経済にはプラスで、現に日本銀行は物価や為替変動を抑えるために、日本の英知と世界の最新情報を集め、国債購入に莫大な資金も投入している。このことから分かるように、作為的な変動は本来ならお金を投じてでも避けるべきで、特に住宅建設のような景気に大きな影響を与える高額資産に対しては、建築着工数の落ち込みは景気へのマイナス影響が大き過ぎることが過去の増税でも証明済みだ。

 

住宅建築費に消費税?

 

欧米の国や地域で、日本の消費税にあたる「付加価値税」が日本よりもはるかに高い国が多いということは良く知られている。しかし多くの国で新築の建築費に軽減税率が適用され、アメリカは非課税、イギリスは税率0、ドイツは注文住宅は19%ながら建売住宅は非課税など、土地と建物は一体の「不動産」(=消費財ではなく“資産”)だというのが世界の先進国の考え方だ。しかも、日本のように新築偏重の国はなく、圧倒的に大きな流通量の「中古住宅市場」は非課税なので、消費増税によって着工数が激減し、景気に悪影響を及ぼすことはないようだ。もちろん日本のように30年程度で建替えられることはなく、通常70年も90年も使われるから「耐久消費財」という認識で消費税を課税する発想自体ナンセンスなのだろう。

 

また先進国の多くが、住宅取得は「投資」だと考えていて、株式投資と同じく、将来手放す時には「キャピタルゲインが得られるかどうか」が購入時の判断材料となる。つまり、最低でも将来、買った時の値段で売れるのが前提で、建物のロケーションやデザイン・性能・周辺環境を判断する。物価上昇や金利分以上は高く売れて欲しいというのが、普通の人たちの不動産購入の動機だ。しかし知識の乏しい素人では、判断材料も不足するからプロが情報提供をし、その対価としてフィー(仲介手数料)を払う仕事が成立する。

 

株式投資をイメージすると分かりやすい。値下がり確実の株を勧めて、手数料を取る証券マンはいないし、いても信頼されず商売は続かない。株自体に消費税はつかないし、基本的に短期で株を売買して儲けるのは投資ではなく「投機」であり「株主」とは言えない。「金」の売買でも同様、将来下がると分かって買う人はおらず、購入時に消費税を負担しても、売却時に次の購入者が消費税を支払うから実質税負担はゼロだ。個人の資産形成には「売却後の利益」に対して税負担を求めるというのが世界の潮流だ。

 

「住宅は投資」という発想に立てば、住宅地は時間が経つほど建物や街並みに手が加えられ、住民によって魅力が高められる。さらに教育水準や犯罪にも注意が払われるから、住民コミュニティの意識が高まって、さらに資産価値が上昇していくという“好循環”になっていく。また家族構成の変化により家が手狭になったり広すぎて持て余した時に、売却すればキャピタルゲインが出る状態であれば、その家に住み続ける必要はない。こうして良質な中古住宅が売り出され、不動産の流動性が高まるから、空き家など市場価値を失った建物の新陳代謝も進むというのが海外で見る美しい街並みだ。

 

その結果、そこに住みたいという魅力的な街が増え、さらに経済的負担能力のある人が移り住んでくる好循環が、自治体の都市政策の基本となる。固定資産税や住民税などの税収が増えて、街自体も豊かになり、企業も優秀な人材を求めて移転してくる。日本は全く逆の政策を行っているから、住宅を取得した人は資産価値を失って将来不安に陥り、空き家が増加して税収は減り、自治体はインフラの維持や住民コミュニティの崩壊にも頭を抱える状態になっている。そろそろ発想の180度転換が必要ではないだろうか?

米国シアトル郊外の住宅地。日本の高台の団地と同様、急坂にも関わらずコンクリートやブロックの擁壁をつくらず、個人の庭もしっかりと手入れされている。販売中の中古住宅の視察で、築10年前後で新築時の1.4倍の価格に上昇しているとの説明を受けた。

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