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若本修治の住宅コラム

2018.10.20 第148話

公共建築で見る建物の「機能」「性能」「デザイン」そして「コスト」

個人で住宅を建てるのは、資金的に限られていてまた建築の知識や発注者としての経験も乏しいため、通常「家は3回建てないと満足のいくものにならない」と言われている。しかし今の世の中で、3度も家を建てられる人はほとんどおらず、だからこそ疑似体験として発注経験豊富な家づくりをサポートしている当サービスは、1回きりの初めての家づくりにおいても、満足度や納得度が高くなっている。

 

一方、公共建築は多くの住民が負担する税金を使って建てられ、役所の専門部署で発注されるので、ある程度の建築予算を掛けることが出来、何重にもチェックが働くから失敗は少ないと考えられる。不特定多数の一般市民が利用するということもあって、必要な機能や性能は満たしているだろうし、デザインも一般的には複数の設計事務所のコンペやプロポーザルなどで提案を競わせて優秀作品の中から選べるので、大きな失敗はないと考えるのが普通だ。コストに関しても同様に、複数の施工者による入札の実施によって、競争原理と役所と議会によるチェック機能が働くから、経済性を重視した建物になるだろう。もちろん都市の象徴的な建物として国際コンペなどを実施したような公共財は、奇抜とも思えるデザインに経済性よりもインパクトを優先することもあるだろう。オーストラリアのシドニーにあるオペラハウスや、代々木体育館のようなオリンピックで使われる競技場などが分かりやすい事例だ。

 

私は以前『都市デザインアドバイザー会議』という、広島市が発注する公共建築物のデザインを審議する委員会の市民委員として活動したことがあった。新しくなった広島駅北口のペデストリアンデッキや自由通路なども審議の対象となり、委員として出した意見が実際に実施設計では変更されていた。建築コストは審査対象外で、見積情報も与えられなかったが、機能やデザインにはチェック機能が働いていた。性能に関しては、不特定多数の市民が使うから、少なくとも耐震性能や火災等の災害への安全性は民間の建築物の標準的基準よりも上回るだろうし、省エネ性能を含むライフサイクルコストの低減は、もちろん民間の模範となるべく先導的なレベルは期待できるはずだ。

 

民間建築物をリードする先導的先進事例が求められる公共建築

 

そんな私の期待とは裏腹な公共建築物が、私が住んでいる西風新都内、安佐南区のアストラムライン大原駅近くで、工事中の仮設足場が取れて、建物の外観が姿を現した。近くにあった地元商工会や区役所の支所、公民館など、バラバラに分散していた公共窓口が、1つの建物内に集約されるようだ。住民や職員の利便性は高まり、利用者の快適性や効率も高まるだろう。しかし、十数年前の水害で犠牲者を出した河川の堤防に直接面した全面ガラス張りの巨大な壁面は、今夏日本各地を襲った豪雨や巨大台風、大地震など、自然災害の備えとして安心感を覚えるデザインではない。さらにいえば、川に面して何も遮るものがないガラス面が西南西に向いており、日射を遮蔽する屋根やひさしもないから、真夏は午後から日没まで強烈な西日にダイレクトに晒されるのは誰の目にも疑いようがない。

工事中の囲いが取れたばかりの建物だが、自然が残り小規模建物しかない周辺の環境を破壊するような外観と、西日を全面的に受ける全面ガラス張りの壁面に、公共建築物としての規範や先導的モデルの気概は感じられない。建物の向こうに走っているのは、カープ仕様にデザインされたアストラムライン

 

広島市が地球温暖化に対応し、市役所本庁でも壁面緑化を実施し、民間へも屋上緑化を勧めるのは、決してポーズではなく省エネの効果が認められ、光熱費の削減や空調機械の更新費用が削減出来るからだろう。今回の建物は真夏や真冬に建物内を快適な環境に保とうとしても、このガラス張りの大きな開口部から逃げる熱や入ってくる日射によって、相当な空調負荷が掛かるだろう。それは建築時のイニシャルコストだけでなく、使用開始後の光熱費から設備更新時のランニングコストまで押し上げる。景観や周辺環境への影響もさることながら、経済的にも高くつくことは間違いない。林業振興もテーマなら、多少コストが掛かっても木造化にチャレンジし環境負荷を低減する姿勢を示しても良かった。

 

国際的にもパリ協定から『SDGs』(持続可能な開発目標)といった環境負荷を低減して持続可能な社会をつくっていく運動が広がっている。国際平和文化都市を自認する広島市も、少なくとも市が発注する公共建築物では、市民や民間企業に対して規範となる「機能」「性能」「デザイン」を、出来るだけ将来的な税金も含めて抑制する事例を示すべきだろう。まだ開館していない施設なので、何とも言えないが、少なくともその意思・意欲が見えない建物が、周辺の景観にも似つかない形で突如姿を現したことに、戸惑いを隠せない。

2008年に完成したマツダスタジアムは、厳しい予算の中90億円の建設費でボールパークをコンセプトに完成し、カープ人気もあって市民に愛される公共建築物になっている
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