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若本修治の住宅コラム

2019.1.20 第151話

災害の危険性が高い立地に家を建てる日本と欧米人の発想の違い。

昨年発生した西日本豪雨災害では、広島県内で死者100名を超える甚大な被害が生じた。その4年前に発生した大規模土砂災害の教訓も十分生かせないまま、避難勧告や避難指示を知っていても、避難行動に移さず命を落とした人たちが少なくなかった。自然災害はいつやってくるか分からず、外への非難が危険な状況や時間帯などもあり得ることから、犠牲者を最小化するためには、物理的に建物自体の立地を災害の危険性が低い地域でしか建築許可を与えず、既存の建物も危険地域から移動してもらうということ以外、将来の大規模な自然災害から人を守る方策はないだろう。「想定外」で建物は被災しても、犠牲者は出ないような居住地域の誘導が大切だ。

 

川の両脇に建つ住宅

 

画像は豪雨災害から半年経過した今年1月、私自身が被災地に出向き、被災状況と建物の立地などを確認した時に撮った画像。もう少し下流のほうが大きな被害に遭い、川沿いに建っていた多くの住宅はほとんど解体撤去されていたので、大きな被害を受けていなかったのは奇跡的だったのかも知れない。しかし左側に見えている建物はほぼ新築で、この場所に土地を買い求め新しい生活が始まってそれほど年を重ねていない段階で、今回の土石流に遭遇したと想像された。画像には写っていないが、川に面して設置してあったエアコン室外機は配管のみ残して流出し、勝手口もガラスが割れベニアで塞がれていた。土石流が発生した時に避難したのか、それとも自宅にいたのかは分からないが、今でも豪雨の時を思い出せば、その時の恐怖が甦るだろう。

 

災害が発生して「被災した場所」に来ると、その立地は危険だということは一般市民でも分かる。しかし被災前の状況で、周りの人たちが普通に暮らしていれば、一般の購入者はその場所が危険だと気づくほうが稀だろう。不動産物件として売られていて、周辺よりも価格が割安であれば、この地域で住処を探している人にとっては「掘り出し物」だと映ったかも知れない。売買の「重要事項説明」の特記事項に、水害や土砂災害、急傾斜などの危険地域だと書かれていても、広島県内では珍しくもないのが現状だ。

 

ハザードマップで調べて危険だと色塗りされていても、実際に災害に遭うまでは本当の危険性を感じることはないだろう。不動産業者は、法律や条例に違反せず、売りたいというお客さんがいれば、購入希望者を見つけ、売買の仲立ちをするのが仕事だ。強欲かどうかではなく、それが業務であり、リスクの説明さえすればプロとして求められている役目を果たしていると考えられるのが、残念ながら日本の不動産業界の現状だ。日本だけでなく、アジアの国ではこのようなロケーションに住宅が建っていることは珍しくないだろう。

 

将来資産価値が上昇する立地、魅力が高まるロケーションとは?

 

一方、住宅を「長期保有すれば価値が上昇する投資・資産形成」と考える欧米では、このような立地に家を建てることは考えられない。危険性があって、将来売却できないと感じれば、金利まで払ってこの場所に家を建てる投資リスクは負わないだろうし、不動産業者も売り物件として扱わないだろう。それは国土の広さの問題ではなく、住宅取得を「投資」と考える国と比較し「耐久消費財」として、広さが同じなら“出来るだけ安く住みたい”と考える日本人のメンタリティーが大きく影響しているように感じる。

そもそも欧米では住宅ローン(モーゲージローン)を融資する金融機関が、災害の危険性がある不動産は担保価値を低く評価して、貸し出しをしないだろうし、それ以前に行政がこの場所を宅地化すること自体許可を出さないかも知れない。この立地であれば川に面して高木の並木をつくり、道路を挟んで宅地としたほうが、街並みも整い、見通しも良くなって、道路整備の効率化や交通事故のリスク低下、自然災害のリスクも下げることが可能だ。川の周辺が親水公園のようになれば、地域住民にとっても川が危険なものから地域の魅力に変わり、地元への愛着も高まるかも知れない。

 

欧米の高級住宅地は、湖畔や池に面した住宅が高値で取引され、ウォーターフロントやリバーフロントといった水際は、プライベート空間として景色を独占出来ることが付加価値となっている。安全と景観にはお金を投じる欧米人にとって、投資以上に価値上昇すると判断すれば、水際のロケーションを選び、安全のためには地下シェルターなどに費用を掛けるだろう。そのほうが豊かな住環境を享受できていることに、そろそろ日本人も発想の転換が必要な時代だ。

 

ヨーロッパの国々は決して国土が広い訳ではなく、土地利用と景観の活かし方が、われわれ日本人よりもはるかに経験豊富で、その道のプロたち行政が歴史や文化、人びとが暮らす街並み・景観を支えている。

米国フロリダ州オークランド市郊外で米軍基地を住宅地にしたボールドウィン・パーク。ゴルフ場のように新たにつくられた池が、住宅地の一等地になっている。

西日本豪雨で被災した集落。川沿いの建物は既に撤去されているが、奥に残った建物も大きな損傷を受けている。(クリックすると画像が大きくなります)
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