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若本修治の住宅コラム

2021.1.20 第172話

商品の「コモディティ化」と経済の関係

長らく続いている日本経済の低迷の一因として、人口の減少と低いままの労働生産性、そして日本が誇る製造業がつくってきた製品の「コモディティ化」が、大きな影響を及ばしている。コモディティ化という言葉は経済用語で、最初に市場に出た時には高付加価値のある商品として高く販売されていたものが、普及率が高まって類似商品が増加、一般的な商品となって低価格化が進むことを指している。Made in Japanが世界でも高い評価をされてきた家電製品やパソコン、通信機器などもコモディティ化して、今や韓国製や中国製、台湾製が世界を席巻している。

この現象を住宅産業に当てはめてみると「人口減少」はそのまま“新築着工数の減少”に繋がり、「低いままの労働生産性」は、資材などの物価上昇と建築労働者の減少によって“建築コストの上昇”に大きな影響を及ぼしている。過去にも書いた通り、着工数の減少は、固定費を下げられない企業にとって、昨年対比の成長を目指す限り“受注単価を上げる”つまり住宅1棟あたりの工事単価を増やすほうに経営判断を働かせる要因だ。「コモディティ化」は、低価格化によって広く大衆にも手の届く価格で、憧れの製品が普及することだが、住宅産業は逆の作用が働き、現状では“差別化による高付加価値”を狙う企業が大多数だ。

以前は、少しでもローコストで提供することで、マーケットシェアを高めるという戦略を取る企業もあったが、広告の反応率が落ち、展示場への集客も多大なコストが掛かって、容易にシェアが高くならない時代になった。企業側には幸い、依然として購入者との「情報格差」は大きく、常に知識の乏しい人たちが新規需要者になる新築マーケットにおいて、従前の価格を比較できる情報もないに等しい。だから営業力でシロウトの説得さえできれば、高付加価値の演出で受注単価を上げることはそれほど造作無く、大手ハウスメーカーでは毎年平均100万円づつ平均単価が上昇している企業もあるほどだ。

戸建住宅最大手の2010年から8年間の受注単価推移。民主党政権時代からのデフレ下でも価格上昇していたことが分かる。ちなみにグラフ化していない最新情報で、2018年は3,875万円,2019年は3,994万円だった。2020年は4千万円を超えるだろう。

 

このような状態は「コモディティ化」とは対局にある「差別化戦略による高付加価値化」だが、一般市民にとってこれが歓迎されることなのだろうか?新型コロナの影響がなくても、所得の上昇が見込める状況ではなく、将来不安も高まる中、他人との差別化をしてまで、本当に30年以上先まで過大なローンを抱えたいと考える人たちはほとんどいないだろう。他に選択肢がないから、皆がそうしているから、仕方なく賃貸か持ち家かを三十代で決断している人が大多数ではないだろうか。

 

住宅のコモディティ化が日本経済を救う

 

輸出製品のコモディティ化は、日本の製造業を弱体化させたといってもいいだろう。しかし一方で、家電製品などの「耐久消費財」は、物理的寿命(耐用年数)と社会的寿命(製品ライフサイクルによる陳腐化)により、十数年で買い換えられるのが必然。購入時に、求める機能・性能・デザインを満たしていれば、廉価で買えることは、消費者にとっては望ましいことであり、不要な高付加価値は“日本製品のガラパゴス化”と言われて、日本企業凋落の一因ともなった。消費者ニーズに応え続けることが、企業の存続には重要で、大衆の支持を集めるような価格戦略、不要なコストの圧縮こそ、これから求められる企業の姿勢ではないかと思われる。

住宅は、家電や車などの耐久消費財とは異なり、簡単に壊れることなく長期で利用される“固定資産”なので、当社が建てる家の資産価値を高く評価して欲しい!」という住宅関係者も少なくない。特に高気密高断熱住宅を手掛け、建築費が高くなったとしても、10年単位で考えればむしろ光熱費や健康に暮らせる投資として回収できるという理屈で、自社の高い家を正当化する住宅会社や設計士は、この十数年で数多く登場したと言っていいだろう。しかしその人達が建てる「高性能・高付加価値」の住宅が、築後10年経過して、物価上昇分程度の価格で、新築時の建築費よりも高く取引されることはなく、自分達の値付けが適正価格だと買い戻しすることもない。

私の自宅に投函された中古住宅の販売チラシ。建築したメーカーの地域不動産販社が仲介で、広告有効期限は2021年1月31日。築8年の住宅の価格が分かる。

 

海外であれば、適切な維持管理・メンテナンスが行われた住宅は、再建築価格(その時点での建設物価)で評価されるのが当たり前で、周辺環境の魅力とその地域に住みたいという需要が高まっていれば、新築時より価格が上昇していることは自然だと考えられている。つまり新築時の機能・性能が担保され、効用が続く固定資産は、造成工事をした敷地の土木加工と同じく、住宅も資産価値が下がらないのが当然の社会常識となっている。

そのためには、新築時の住宅はその時に求められる「機能・性能・デザイン」がコモディティ化して、手の届く価格からスタートし、特殊な好みや使い勝手で差別化されず、汎用品で10年後も同じ部品が使える「規格化・標準化・単純化」された住宅を供給するほうが、将来の消費者に支持されるだろう。結果として、購入者の経済的負担を下げて入居後の可処分所得を上げ、将来の中古住宅の流通市場も活性化させて、地域の持続可能性と地域経済の発展に寄与できるだろう。それを担うのは、大都市圏の大資本メーカーではなく、地域に密着したビルダー・工務店が望ましい。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

米国シアトル市郊外の老朽化したボーイング社のブルーカラー向け社宅を再開発したハイポイントの街並み。汚染と犯罪増加で悪化していた周辺環境が甦り、中間層と低所得者向け社会住宅が混在しているが、周辺の不動産価格を上昇させている。

米国シアトル市郊外の老朽化社宅を再開発したハイポイントの街並み。中間層と低所得者向け社会住宅が混在しているが、周辺の不動産価格を上昇させている。
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