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若本修治の住宅コラム

2017.12.20 第138話

『帰省ラッシュ』が無くなる日

戦後の日本では、長男が地元に残り家業を継いで、次男や三男は多くが地元に残らず大都市圏に職を求めて移住して行った。東京オリンピックを契機に、新幹線や高速道路が地方にも順次延伸され、地方空港も整備されたことから、大都市圏からの日帰り圏内の地域も広がっている。そして人口ボーナスによる経済成長と、田中角栄内閣による『日本列島改造論』が地方を豊かにし大学進学率も上昇、大都市圏に進学した地方出身者は地元に戻ることなく、多くが大企業に就職先を見つけ、サラリーマンとして大都市圏に居を構えた。地方出身者の多くは、地縁血縁のない郊外の新興住宅地に住宅を購入して、通勤ラッシュに揉まれながら都心の会社に通勤し、都会生まれの子供たちを育てた。

 

ストレスの多い大都市の生活で、家族の楽しみの一つは、ゴールデンウィーク盆正月に両親の故郷に帰り、おじいちゃんやおばあちゃん、従兄弟などの親戚に会うこと。親は同窓会などにも参加し、実家では「この時とばかり」に豪華な地元料理が振る舞われる。もちろん祖先のお墓掃除やら農作業などを手伝うこともあるだろうし、地元のお祭りに参加するなど、観光客とは違い“お客さん”と扱われることなく、昔行なっていた役目を果たすこともあるだろう。しかし数日間のことでもありいい思い出を持って都会でのストレスも発散出来、故郷を離れ仕事へと戻っていく。

 

田舎に戻る理由が続くか・・・?

 

この『民族大移動』ともいえる“帰省ラッシュ”は、毎年ニュースで渋滞予測が流され、駅や空港、高速道路など、人や車で溢れ返った。その映像は、日本では恒例行事として年3回は必ずと言っていいほど繰り返されてきた。この帰省ラッシュや休暇中の海外旅行などにより、各交通機関や旅行会社などは、まとまった売上も確保し、日本の経済にも一定の効果を生んできただろう。これまでは当然のように長期の休みは家族揃って両親の故郷の実家に帰る人たちが多かった。しかしこれから先はどうだろう。

 

今、地方では超高齢化が進展し、多死社会になってきた。人口構成で最もボリュームの大きい団塊世代も、年金をもらう年代になり多くは現役を退き、田舎に住む親も両親とも元気な人はわずかとなってきた。どちらかが亡くなったり、介護や療養のために施設に入居している人が圧倒的多数になっている。すでに仕事を辞めていることから、家族で故郷に引っ越し先祖代々の農地を手入れしたり、親の介護をする人たちもいるが、ご主人だけが地元に戻り、奥さんや子供たちは都会に残って生活している家族も少なくない。

 

大都市圏の郊外で住宅取得をした団塊世代の子供である『団塊ジュニア』もすでに四十代を過ぎ、自分たちの故郷は両親の実家がある地方の田舎ではなくなった。祖父母が亡くなれば、先祖代々のお墓参りさえしなくなるだろう。田舎には知った顔もなく帰省する理由は無くなっていく。

 

つまり“日本の風物詩”とさえ思われていた「帰省ラッシュ」は早晩消えていき、恐らく20年後には「盆踊り」や「初詣」も一部の有名な地域、大きな神社でしか行われず、過疎地ではそのような風習も消えてしまうのではないだろうか・・・?すでに正月三が日に車のフロントに付けていた正月飾りは目にしなくなり、玄関脇の国旗掲揚の金具も、ほとんどの新築住宅で取り付けなくなって久しい。

広島護国神社への初詣の様子。片田舎の小さな神社では、このようなお正月の賑わいは失われていくだろう。

 

このように将来をイメージした時、先祖代々引き継がれてきた土地や農地が、故郷に戻ることのない親族が相続したとしても、すでに土地利用の需要は減退し『負動産』としてお荷物になる可能性は少なくない。地方にとっては決して個人の問題で終わらせるのではなく、地域で今から準備して解決すべき課題だろう。

帰省ラッシュがなくなると、地方空港にとっては存続の危機になるかも。
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