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若本修治の住宅コラム

2012.10.20 第77話

毎日眺めたい景観と住みたくなる街

日本の住宅業界では今、中古住宅のリフォームやリノベーションが脚光を浴びているという。私が住宅リフォームのFCチェーン本部に入社したおよそ20年前も「リフォームの時代」と言われ、これから日本も本格的なリフォーム需要が大きくなると言われ続けてきた。
しかし一方で、まもなくお引渡しする二世帯住宅の施主は、15年前に大手ハウスメーカーで建てたプレハブ住宅には愛着がないため、隣の実家の敷地に木造で快適な二世帯住宅を建てたいと相談され、その鉄骨住宅は事務所として利用するという。耐久性は問題ないのにも関わらず、愛着がわかずに使われない住宅が日本では増え続けている。

日本の中古住宅の市場は、交通や利便施設などの「立地条件」がその不動産の価値を決める。極端に言えば、現地に行ってみなくても、地図上で駅や学校、病院、商業施設を確かめられれば、不動産価格が想定できてしまう。中古の建物は、ほとんど資産価値は認められず、耐震性能や省エネ性能などもほとんど期待されていない。きちんとした検査や評価がされないまま、内装や設備、外部仕上など表面的にきれいにして「リノベーション」したと売り出される。

一方北米では「中古住宅」とは呼ばれず「既存住宅」と呼び、しっかりとインスペクション(建築検査)を行うことで、建物の性能や品質も再評価される。それ以上に重要視されるのが、その住宅が建っているロケーション。交通や買い物の利便性はもちろんだが、街の景観や雰囲気、建物自体のデザイン、そして建物の中から見える景色も購入者にとっては重要な要素だ。そこに住んで「毎日眺めても飽きない景観」が、家の価値を大きく左右する。それは、日本の中古住宅のように、立地では決して決められない。

日本で、既存住宅のマーケットを活性化し、長く住める住宅を供給するためには、今の新築の段階から資産価値のある住宅地や景観をつくる必要があるだろう。日本の住宅は、数は充足しているものの、ハードもソフトも含めて、良質な住宅はこれまでほとんど供給されてこなかった。それは建物から十数メートル離れたところから見た住宅地の雰囲気や、建物内部から見える景観が「毎日眺めても飽きない」かどうかを考えれば、誰だって想像がつく。
資産価値の高くなるような良質な住宅のストックがあって、はじめてリモデリングが住宅の価値を再生産し、街が成熟していく。日本のように団地の歴史にあわせて住民の高齢化も同様に進行という現象も避けられる。そのためには、街自体が魅力的で、その街に住みたいという人たちが順番待ちをするような美しい景観を、新築の段階からつくり、長期的にその景観を守る仕組みが必要だ。窓を開ければ隣の洗濯物が目に入るような既存の住宅地では、決して資産価値が高くなる住宅の供給はおぼつかないだろう。

これから新築を着工するお客様は、北米のアトランタに駐在している時に弊社のホームページを見つけ、家づくりの相談がスタートした方。弊社に相談に来られる方は、意外と海外駐在経験のある方が多く、日本の土地価格の高さと良質な住宅地が少ないことを嘆いている。

「アメリカの中古住宅は近くに生えている樹の大きさで価格が決まると言っても過言じゃないんです。」

日本では手入れが面倒だと敬遠される「大きな落葉樹」や「芝生」が、自分たちの資産を増やすポイントだというインセンティブが働くアメリカ。そして、建物のハード面や建物内部のインテリアばかりに眼がいく日本の住まいでは、将来の資産価値に雲泥の差がついてしまうのは致し方ないことかも知れない。だから今、単体の建物だけでなく、「毎日眺めたくなる景観」をつくることが求められている。

ダブルスネットワーク(株) 代表取締役 若本修治(中小企業診断士)

米国ワシントン州シアトル市対岸の島、ベインブリッジアイランドで米国人建築家マシュー・コーツ氏設計の家の中から見た景観。裏庭からエリオット湾越しにシアトルダウンタウンの高層ビル街が見える
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