2017.9.20 第135話
地域経済を未来まで潤す「住宅建設」という川の流れをつくるには。
前回、川の流れに例えて、住宅建築による地域経済に及ぼす影響を書いた。少子化や人口減少が急激に進む地方でも、当面の期間、住宅建築は安定した県内GDPに貢献している。だからこそ日本国内だけでなく、世界の国が景気対策として住宅建設促進のために低金利や税制優遇などを行って、借金(=将来の家計支出の先食い)をさせてでも、今の経済の底上げをしようというのが住宅建設需要だ。
現在広島県内だけで毎年2千億円程度の住宅建設需要がある。ベンチャー企業が何社起業し、成功すればこれだけの金額を地域に還流できるのか、どれだけの大規模イベントを誘致し、地元スポーツチームが優勝すれば、これほどの経済効果をだせるのか・・・。1年後にこの数字が実現でき、そのまま継続できる保証は新築需要以外にないと言っても過言ではない。その需要の半分、数百億円から1千億円程度は県外の大手ハウスメーカーに流れているというのが現在の実態だ。将来の家計支出を先食いしたお金が、毎年のように地域に循環せず流出しているということだ。
住宅需要を地域経済に循環させる
地元に頼む先が無い訳ではなく、数多くあるのにも関わらず、金額や品質・性能やアフター保証などが分からないから、テレビCMを流している県外大手に頼んでいるというのが実態だろう。住宅展示場に出展し、大量の広告宣伝と問合せに応える数多くの営業マンを配し、多数の会社を比較しても最終1社としか契約できない。だから、その営業ロス分は請求できず“損益分岐点売上が高い”というのが大手ハウスメーカーの特徴でもある。逆に言えば、経営の安定性に欠け、損益分岐点売上が確保できない状態が続けば、その地域を撤退するしかないという状況に追い込まれやすい体質でもある。戦国時代の小さな領主・国衆の立場で考えれば、泣き所はかなりはっきりしており、攻める場所さえ間違えなければ、容易に領地から退却するだろう。
例えば、地元で住宅建設が出来る工務店・建設会社の数が多過ぎて、消費者が判断できなかったり、会社の経営や建物の性能・品質が不安で頼むのに躊躇するようだったら、その不安を解消するサービスの潜在的需要は高いだろう。デザインに対する不安も同様に、地元にも数多くの設計事務所やデザイナーがいて、仕事を求めているが営業力や集客力が乏しく、ハウスメーカーの下請けをしている設計者も少なくない。力があっても発揮できないのだ。だから公共事業の入札と同様、個人の住宅建設でも入札やコンペによって住宅建設資金の投入先を比較・検討して、効率よく安心して購入者自身が意思決定できる仕組みが、その潜在ニーズを埋めることが出来る。民間の入札サービスだ。
しかし、そのようなサービス自体の知名度や信用力が欠けるのであれば、県や市などの地方自治体が官民連携して、信用力を補完し、運営に関与してもいい。毎年需要は確実にあるマーケットなので、投資額もリスクも少ないニュービジネスになり、サービスが広まるほど、地域に循環するお金が増える。その結果地域での雇用増大や大手ハウスメーカーを辞めて独立する起業家も登場するかも知れない。
そのような窓口への業務が増えて安定することで、業務の標準化、街並み景観や住宅デザイン、コンストラクション・マネジメントを集中して教育することが出来、住宅の資産価値向上の専門家育成が可能となる。そうなれば入居後も資産価値の維持が図られ、家族構成や個人の経済事情等で住宅を売却する時に、今よりもはるか住宅ローン残債以上の売却金額で売れる可能性が高まる。良質な中古住宅の流通やリモデリング需要は、確実に地域に仕事と雇用を発生させ、将来の空き家発生も減らすことが可能だろう。
ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)