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若本修治の住宅コラム

2016.3.20 第118話

相続「税」対策のアパート経営とGDP至上主義の弊害

すでに日本が人口減少社会に突入して久しく、また空き家も急増する中で、いまだにアパートや賃貸マンションなどの建設が抑制されることなく、大手ハウスメーカーの収益源として好調な経営を支えている。相続税の基礎控除が4割圧縮され、市街化区域の農地も土地所有者の高齢化や後継者不足に伴い、農業の継続を断念して「相続税対策」も兼ねて賃貸経営に舵を切っていることも影響している。

 

また、農地を所有している農家だけでなく、後継者不在や時代の環境変化についていけず、業種転換や廃業などを考えている中小企業経営者も、長年蓄積してきた利益(社内留保)や、従来所有していた資産の売却などで得た資金の運用先として、不動産投資に向かっている。そのままでは資産は目減りするだけで、最終的に国に税金として納める額が莫大となるので、事業として赤字になったとしても『資産圧縮効果』が高いという判断が経営者に働いているのだ。それを取引先の金融機関や会計事務所から勧められると、投資に慎重な経営者でも前向きに検討してしまう。その投資案件が上場している大手企業からの提案で、しかも『満室保証』というサブリース契約であればすっかり安心し、その地域の需給関係に関わらず投資話に乗っている。

 

区画整理で広大な宅地が開発され、売れ残った駅から遠い土地を大手ハウスメーカーが市場よりも割安で大量に購入、相続税対策が必要な投資家(個人の富裕層向け)に「資産圧縮効果が高いですよ」と、建売アパートの購入者を募集しているエリア。従来のような先祖代々の土地ではなく、サブリースで満室保証をしたアパートと土地を販売するという商売をしていることに驚かされた。

 

■需給関係か?GDPか?

 

これほど空き家が社会問題となり、税金を投入しなければならない状態にもかかわらず、地方でもアパート建築が続くのは、高い需要が続くわけではなく、経済対策として「着工統計」が重要な経済指標になっているからに他ならない。また、高齢者や富裕層が貯め込んだ預貯金や資産を、低迷する日本経済に「吐き出させる」ために、様々な税制改正を行っている。その最大の投資先であるアパート経営は「資産圧縮」や「固定資産税の軽減」「リターンの高さ」で、全く不動産の知識や経験のない高齢者でも簡単に収益があげられる『資産運用』と『相続税対策』になっている。

 

地方自治体にとっても、雇用も住民増も生まない更地のままの造成地、区画整理地よりも、アパート建築によって自治体内の総生産にプラスに働き、一時的にでも住民の増加と固定資産税収入が得られるので、相続税対策によるアパート建築は歓迎されているのだろう。しかし冷静に考えてみれば「国に高額な税金を収めたくないから」という理由で、実際の資産価値よりもはるかに高い建築費の賃貸住宅を建て、実際の固定資産税評価との余りにも大きなギャップにも驚くことなく「資産圧縮効果が高い!」とセールストークで騙されて、その地域の住宅の需給バランスを崩すことは、将来的に地価の下落と空き家の増加を招くだけで、自治体にとっても憂慮すべき事態ではないだろうか?

 

しかも、サブリースで「家賃保証」を謳い文句にする大手ハウスメーカーの多くは県外企業であり、本来は社会保障や福祉関連にも使われる税金が、あまりにも不透明で無駄に使われているから、「税金に取られるくらいなら」という感情になってしまっている。そのお金が県外の「私企業1社」に上納されているということさえ気づかず、自治体や地元金融機関、地域の税理士・弁護士たちが、手先となって、地元資産家の資金の県外流出に貢献しているのが現実の姿だ。県内GDPは数字上計上できても、これを繰り返せば、実際には地域経済は衰退していくばかりだろう。

 

そんな企業の一社が、日本経済に貢献したと日本政府から叙勲を受け、総理大臣から表彰されるような国では、フロー経済やスクラップ・アンド・ビルドがいまだに推奨され、一般市民や資産家に『住宅の資産価値』や『持続可能な地域経済』といったことは、残念ながら政府と大手ハウスメーカーの洗脳によってかき消されているのかも知れない。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

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