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若本修治の住宅コラム

2016.4.20 第119話

資産形成する土地活用と、資産を流出させる土地利用。

私が住む広島市の平和大通り沿いの川に面するリバーサイドの立地に、今定期借地権付き分譲マンションの建築が進んでいる。四国本社のマンションデベロッパーにより、公園都市のような緑豊かな通りに、プライバシーやセキュリティを重視した、閉鎖的なマンションが建てられようとしている。以前は自動車メーカーのショールームがあったが、リコール問題や燃費表示の不正等があった影響か、老朽化したショールームは閉店してしまった。

 

このマンションがなぜ『定期借地権付き』での分譲計画がなされたその背景は分からないが、東京オリンピックや東北の復興による人手不足や建築費の高騰により、分譲マンションの収益性にも影響が出ている。土地を仕入れてマンションを建設したのでは、販売価格が高止まりして売れ残りの懸念が出てきたようだ。複数の入居者が土地の負担をする「マルチファミリー・ユース」のマンションでは、土地代の負担は軽いものの、それでも開発費を圧縮し、販売価格を抑えるために定期借地権付き分譲にしたのだろう。

 

賢い資産形成とは

 

定期借地権発祥の地、英国の『リースホールド』は、広い土地を所有する貴族や大地主が、自分のお金を使うことなく、そのままでは価値の低い自らの土地に、他人のお金で街をつくった。長く地代の収益(フローのお金)が得られるだけでなく、将来に亘って土地の資産価値(ストックの価値)が上昇するような土地活用だ。キャピタルゲインが地主のものになるよう街並みのデザインと不動産経営を心掛け、実際に100年経ても変わらない豊かな住環境と不動産価値を提供している。地主とその子孫は、お金に換算できるものだけでなくそれ以外に得ている価値も莫大だ。

 

一方、今回建設されている平和大通り沿いの分譲マンションの立地は、海外では地元民だけでなく観光客も集うような、都市の賑わいを生む『一等地』。本来であれば、商業立地としてカフェやブティック、オシャレな専門店など、少なくとも1・2階は多くの人が交流する「公共的空間」を提供すべき場所だろう。郊外のショッピングセンターでは体験できない、ここだけしか買えない商品や愉しみがあり、その結果多くの雇用を生み、経済活動によって税収も期待される。そのような通りを形成することで、この緑の空間は、市民の税負担で維持・管理され、市民にも愛される通りになって、さらに人が集まる好循環が生まれてくる。

 

しかし現実には、土地の固定資産税を抑えるために『小規模宅地』となるよう、分譲マンションを詰め込み、相続税評価を抑えるために、定期借地権という「他人の権利」を土地につけて、販売価格も抑えるということが行われている。プライバシーやセキュリティを重視するために、通りから隔離するようなファサードのデザインと車の出入り口を歩道に面して設けるから、街の賑わいは失われ、結果として資産価値は低下していく。税収も先細りだ。

 

都市の中のオアシスのような、好条件の立地を活かして、その土地のポテンシャルを活かすように、自らのお金を使わず、賑わいや資産価値向上に知恵を絞る英国の地主と、そんな好立地を県外のマンションデベロッパーに好きなように利用させ、雇用も経済活動も失わせて、ここを契約する地元民の「マンション購入代金」まで県外に流出させ、50年間この状態を固定化させてしまう土地利用を比較して、どちらが賢いか、小学生でも分かるだろう。それを税金で雇った市役所職員や有識者が、都市計画審議会で土地利用を協議し、用途地域や地区詳細計画を定めながら、業者から提出された建築確認申請に「法令合致」だけで承認し、将来の影響を加味しないことに驚きを禁じ得ない。

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