2018.4.20 第142話
災害復興と地元の職人不足の未来への影響
熊本地震から2年が経過した。震災1年後に仮設住宅に暮らしていた人は約47,800人。仮設住宅は基本的に2年しか住むことが出来ないが、未だに約38,000人が仮設住宅に暮らしているという。津波で街全体が破壊され、防潮堤や高台の宅地開発、地盤のかさ上げなどで時間が掛かった東北の三陸海岸沿いの町であれば、仮設住宅からの移転が2年では進まなかったということも理解できる。しかし被害の大きかった益城町も含めて、倒壊の危険を判定された建物の除去が終われば、土地の境界や所有権確認などは震災前と基本的に変わらない熊本で、これほど長期間、仮設住宅暮らしが続くことは、とても世界の先進国だとは思えない。個人の経済力の問題とか、建設業者の能力不足といったことに矮小化してはならないだろう。
東日本大震災や熊本地震以外にも、毎年のように大きな自然災害で住宅が損壊し、被災地の復興が課題になるが、将来も含め私が最も危機感を覚えるのが復興を担う建設関連の “職人不足”と“高齢化”。AI(人工知能)やロボットに置き換えることが出来ない、大工やクロス張り職人など、技術や技能を持つ人が足りないことが復興の足枷になっている。
基礎工事が終わっても3か月間建築が着工できずに現場が止まっている熊本の被災者は、仮設住宅の入居期限も迫り途方に暮れていた。建設業界の職人不足は、目先のコストアップや品質低下に繋がるだけでなく、将来の地域の活力低下にもなり兼ねない重大な事態になっている。
住宅取得支援で行政が出来ること
自然災害によって自宅を失った人々が、活断層や津波被害を避けて新たな土地を買い求め、住宅建設費まで個人が負担するとなれば、ほとんどの人が過大な住宅ローンを負うことになるだろう。現状では、建物の被災状況に応じて行政から数十万円~数百万円の見舞金が出ているが、とてもそのくらいのお金で元の生活には戻れない。お金が調達できたとしても、熊本のように業者の手配がつかず、仮設住宅から移れない人たちも数多く出ている。行政がもっと住民に寄り添うサポートをし、将来安心して暮らせる生活設計まで助言できる「相談窓口」や「支援機関」を設立してもいい。
従来の公共事業は、住民に成り代わり、建設業者への発注や見積チェック、工事品質の管理をしていた。それと同様に、復興の住宅建築でも自治体によって地域の建設業者、職人たちの情報を一元管理し、簡易な入札制度によって効率よく、しかもしっかりとコストコントロールされた適正な価格で地元業者が復興住宅、新築需要に応えられる体制をつくることは、自治体にとっても復興に大きな役割と、地元への経済効果をもたらすことに繋がるだろう。
しかし、現実には地元の建設業者や職人たちも被災し、それまで何百軒、何千軒と手掛けたOB客の自宅の応急処置や補修工事に追われ、新築は県外の大手ハウスメーカーが他地域の営業マンを大量動員して、復興特需に沸いているというのが実態だ。つまり手持ちの資金で緊急で出来る小さくて手間のかかる工事を地元の業者が担い、数十年のローンを組み、多額な資金を用意して手間はさほどかからない新築住宅は、他県から入ってきた業者が奪っていく。自治体も仮設のプレハブ住宅提供などの便宜を受けており、機動力や資金力もある大手ハウスメーカーや大手ゼネコンに依存した復興で、公費だけでなく地元住人の将来の収入まで、住宅ローンとして圏外に流出するのを気づかないまま、割高な工事費を負担している。私の試算だと地元のほうが概ね2割安い。金額にすれば600~800万円の差が出るだろう。
当社の『住宅CMサービス広島』のような建設プロセスのマネジメント、地元工務店の入札制度をすでに提供しているサービスのほか、地元に住む建築士やファイナンシャルプランナー、金融機関、建設業者、士業の方々が連携して組織や窓口をつくり、行政が支援したらどうだろう。まとまった形で街並みを計画し、共同発注で資材の調達や施工をすることが出来れば、災害前よりも美しい街並みと住民のコミュニティが創造できる可能性が高まるだろう。個別の発注よりも確実に建設コストは安くなり、街並みは美しく整って、資産価値のある魅力ある場所になる。そして地元の材料・職人でつくられたその町並み維持・管理には、地元の職人たちの仕事も将来に亘って持続可能となるだろう。
復興で生まれた雇用と再生された街並みが、将来の職人たち、技能者を地元で育てていく好循環をつくることこそ真の災害復興事業だ。実際には、災害時に限らず将来の公共・民間の建設物の維持・管理や、地元の住宅需要を、地元で育った技術者が担い続けることが、地方の中小都市にとって経済にも雇用にもプラス効果が生まれる。逆に大手任せだったら、マイナス効果しか生まないから今後、私たちのような代行業、エージェントの存在理由ももっと高まるだろう。