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若本修治の住宅コラム

2026.8.28 第195話

巨大化する自然災害に住宅業界はどう応えるか!?

 2026年の夏は、ここ数年に比べると特に西日本は梅雨時期が短く、6月は比較的涼しかったものの7月以降は猛暑が続いている。今年から導入された最高気温40℃超えの『酷暑日』も全国で記録され、大雨でも『特別警報』として「警戒レベル-5」も史上初めて千葉県や石川県で発令された。AIに聞いてみると、7月の広島県の気温は平年よりも2.1℃高かったようだ。

 ちょうど1ヶ月前の7月28日の夕方、雑居ビルの7階にある当社事務所もゆっくりと大きな揺れを感じ、スマホで地震速報を見ると、また熊本を大きな地震が襲ったと表示された。10年前に震度7の地震に二度も見舞われたエリアに、また震度7の地震が発生したことに驚かされる。熊本県内の個人住宅は10年前から耐震性能を高め、建物倒壊で生き埋めになる被災者は減ったものの、ショッピングモールの爆発や製紙工場の煙突の倒壊など、意外な場所で多くの人命が失われてしまった。

 

 8月に入っても、史上初めて茨城県に上陸し、日本列島を東から横断した台風の影響で、千葉県を中心とした豪雨災害で2500台を超える車が水没・道路に放置されて、陸地で溺れる人が出るなど、これまで経験のないような自然災害が多発した。茨城県南部でも内陸型の直下型地震があり、最大震度5弱を記録するなど、災害はどこで起こってもおかしくないほど発生頻度が高まっている。

 また地震や大雨の影響で、古くなったコンクリート擁壁やブロックの法面も崩壊の危険性のある箇所が全国に200万ヶ所もあるという報道もある。住宅業界にとっても、単に建物単体の性能や価格・デザインを競うだけでなく、50年先も家族が安全に暮らせるロケーションか、被災を避けられる敷地条件を満たしているか、自然災害以外にも火災や防犯など、より広範囲な安心を提供する責務が求められる時代になったと認識すべきだろう。

昭和の時代に急傾斜地に開発された広島市郊外の宅地造成地。コンクリートの劣化だけでなく種類の違う擁壁が積み重なっている。上の建物の重量によって擁壁に負荷が掛からないよう、必ず地盤の補強や基礎構造の工夫が必要だ。

安全な間取りとは

 最近の住宅設計を見ていると、1階のLDKは20帖以上の広さを確保し、しかも柱や壁のない空間が欲しいという要望に、若手の設計者が易々と応え、2階に主寝室や子供部屋を配置していく。昔ながらのベテラン設計者は、1階の通り芯(柱や壁の配置)に従って2階の間取りを作成していたが、今やトレーシングペーパーという半透明な用紙を使い手描きでプランを作成することはなく、いきなりCADソフトやタブレットで間取りを考えていく設計者が増えた。

 階段位置こそ1階と2階は同じ位置に配置されるが、その他の間取りや外壁ラインは上下が重ならなくても難なくプランが出来る。仮に柱や壁の位置がズレていてもCADが自動的に外観も生成してくれ、屋根の架け方や窓を入力すればそれなりの設計図が出来てしまうのだから恐ろしい。

 10年前の熊本地震で話題になった『直下率』は、2階の柱の下にきちんと1階の柱が支えているか、壁が配置されているのかが地震の強度、建物倒壊に影響していると報道された。だから設計者はもとよりこれから家を建てようとする一般の消費者まで「直下率は大丈夫ですか?」とプロ側に尋ねるほど間取りによる耐震性能不足を懸念する声が大きかった。しかし10年も経てば施主も設計者も若返り、今ではプロ側が構造計算をして“安全な間取りを設計しているハズ”だとして、とにかく「カッコいい空間」や「開放的な間取り」が好まれているようだ。

 

 さらに言えば、1階の玄関脇には「シューズクロークが欲しい」とか「洗濯物を2階にあげるのが大変だから脱衣・洗面に乾燥室を設けたい」とか「着替えも1階で済ませたいのでファミリークロークが必要」という要望で、とかく1階が大きく、その分2階が小さくなりがちだ。そうなると多くの間取りや構造は1階と2階のバランスが悪くなり、基礎は大きく屋根は小さくなって、外壁ラインも複雑で外観もアンバランスな建物が設計される。

 建築コストや熱損失(省エネルギー)、構造の安全性を考えても、出来るだけ総二階に近い形で外壁を最小化するのがプロの仕事だと考えてきたが、いくつも出隅・入隅のあるデコボコの住宅が今やカッコいいと感じる人達が増えている印象だ。ユーザーだけでなく、プロの設計者側もそれによって建築費がアップして自社の売上げが大きくなるのか、お客さんの言いなりになって複雑な間取りを設計している。

1階平面プラン

当社で相談に乗った他のハウスメーカーのプラン。お客様の要望は満たしているというものの、いびつな平面計画で動線は長く、2階の部屋の柱の乗り(=直下率)も悪かった。当社にてご要望を再度ヒアリングし、全く別のプランを提案した事例。

 

 単純化して考えれば分かるが、建築を学ぶ学生や設計事務所で厚紙やスチレンボードで建物の模型を作る場合、複雑な平面形状や1階と2階の広さが大きく異なると、材料をカットする手間も増え、短い壁で接着したコーナーは弱く、1・2階を重ねるにも多くの補強材が必要なのはイメージできるだろう。つまり平面形状を複雑にするほど、柱や梁が増える上に材料の太さ・厚みも必要で、壁材・屋根材をカットする手間も接着個所も増加、にも関わらずちょっとした力でも変形しやすい。材料費も制作時間も総二階の建物よりもはるかに掛かるということだ。

 それでも、自分たちの家なので負担増でも、複雑な平面形状で1階は柱を無くして大空間を実現させたいというのであれば、その要望に沿うのが注文住宅の設計だが、大地震で建物が安全とは限らない。『壁量計算』という簡易な仕様規定で「安全です」と言っているケースも少なくない。耐震性能を確かにしたいのであれば、『許容応力度計算』で耐震等級-3を要望するなど、消費者側で自己防衛も必要だろう。建築基準法の耐震性(等級ー1)は、震度6程度で一度揺らされても「倒壊しない」強度であって、中に住む人の生命は守られるが、繰り返しの大きな揺れにその後も居住できる安全性は担保されない。だから直下率や構造計算が大事になる。

建築スタディ模型

薄いスチレンボードで作成した戸建て賃貸のスタディ模型。手前に外した2階と屋根を並べている。階段部分(青いスチレンボード部分)を構造のコアとして1・2階を重ねる。このような凹凸のない四角形の外壁ラインであれば、構造は安定し、使用する材料も最小限で済む。つまり建築コストも最小化され、構造の安全性も高まる。

未来の気候変動に対応するために

 今や、建物単体の強度や耐震性を高めても、将来にわたって安心して快適に暮らし続けられるという確証が得られなくなっている。住宅ローンの返済は35年からさらに伸びようとしているのに、その返済の期間中でも地震だけでなく洪水や火災、熱波や台風など、どのような災害に見舞われるのか分からない時代になってきた。夏の平均気温は上昇する一方で、住宅を取得する時に将来の気候変動に備えるという考え方は益々重要度が高まっている。立地条件や近隣の防災・防犯意識の高さなど地域コミュニティの結束力なども評価基準にしたほうが良さそうだ。

 

 日本では、コンクリート擁壁で造成された平坦な土地が安全だと思われがちだが、米国などの住宅地を視察するとよほどの急傾斜でない限り、敷地を擁壁で嵩上げしたり、建物と切り離して単独でコンクリート打放しの擁壁が露わになっているような住宅地を見ることはなかった。多くは元の地形をうまく活かした傾斜地に家が並んでいる。

 土地の高低差は、その建物自体の基礎の高さで調整し、水害などが懸念されれば基礎を高くしてポーチの階段数を増やすなど、擁壁の耐用年数や老朽化に影響されないよう、敷地の高低差は植栽計画などで緩い勾配にして街並みの美しさにも寄与している。結果的に、多額なコンクリート擁壁の造成コストや土砂の運搬費用等は圧縮され、建物や外構・造園に、より多くの費用を振り分けて良好なランドスケープを整えることが出来る。

北米の2✕4住宅建設現場

米国西海岸の住宅建設現場を視察。高台の団地でも、敷地の高低差を出来るだけ建物自体で吸収し、擁壁を最小限にしていた。日本では敷地に降った雨を道路側に流し、側溝を通じて下水道に流れ込むから、豪雨時に内水氾濫も起きやすい。敷地に降った雨は出来るだけ敷地内に浸透させ、植栽による蒸散作用で住宅地周辺のミクロ環境を整えたい。

 

 さらに擁壁は型枠を外した後、土を埋め戻しするから擁壁(法面)の際(きわ)は地耐力が不足しがちで、土圧や水圧もかかり続けるから50年もすればコンクリートの強度は低下、劣化も進み亀裂も生じやすくなる。その状況で所有者(一般的には擁壁上部の土地所有者)が管理責任を問われ、補修等の義務を負うことはほとんど知られておらず、当人も意識することがない。地震や大雨による擁壁の損壊や亀裂が出はじめて、はじめてそのリスクと責任や負担におののく場面が将来発覚するだろう。

 コンクリート擁壁が崩壊したら莫大な費用が必要となるが、とても個人での工事費の負担や工事の手配などは無理だろう。そんな個所が現在でも全国に200万ヶ所もあるというのだから、これから家を建てようとする人はそのリスクは最初から認識したほうがいい。残念ながら、プロ側の多くが、そんな認識がなく土地を造成し分譲して住宅を建てているのが実態だ。

高台の住宅群

すぐ近くに活断層が走る広島市郊外の大型団地。建物の高さほどある垂直のコンクリート擁壁が、大地震でひび割れたら、建物だけでなく擁壁も所有者が直す必要がある。擁壁上部に道路はなく個人の裏庭だから、恐らくそれぞれの建物所有者が下の道路境界線がある擁壁下端までの所有権登記をしていると想像される。眺めは良く、プライバシーが守れているようで、いざとなった時のリスクは高い。

●参考コラム第187話『地形と景観を考える』

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)


 

広島市豪雨災害伝承館
2014年8月に発生した広島土砂災害で被災した安佐南区八木地区に建てられた『広島市豪雨災害伝承館』。令和7年には天皇陛下も視察に来られ、災害の実相と復興の状況を確かめられた。
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