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若本修治の住宅コラム

2002.12.24 第8話

劇的ビフォアー&アフター

最近、日曜日夜のテレビ番組『劇的ビフォアー&アフター』がちょっとした話題になっている。所ジョージが司会で、様々な問題を抱える住宅を、建築の専門家である「匠」がリフォームによって解決していくというものだ。非常に悪条件であったり、施主の思い出がいっぱい詰まった住宅の解体材を再利用したりし、視聴者の共感を呼んでいる。

 

何よりも、『劇的』というほどあって、従前住んでいた部屋が、まったく違った空間になってしまうところに、驚きと感動があるのであろう。最近は、新築住宅でも大手建材メーカーや住宅設備機器メーカーの建築資材を組み合わせて出来た家が多く、リフォームにおいても、同様だ。そこには、施主の暮らしを十分聞き取り、オリジナルな提案、プランニングを行なうというプロとしてのこだわりや独創性はなく、建材メーカーの販売代理店的な仕事になっている。従って、住宅リフォームの分野に、家電屋さんや家具屋さんなど、従来流通小売業を営んでいた会社も次々と参入し、技術や経験は二の次になろうとしている。

 

この番組は、住宅リフォームを中心に事業を営むプロの工務店にもよい刺激になっているようだ。メーカーの住宅設備機器を扱うと、売上は大きくなるものの、どこでも扱えるため結局価格競争になりやすい。このご時世で仕入れを手形で支払っていると経営リスクも高まるため、住設機器や既成の建材の扱い比率を下げ、付加価値の高いオリジナルな設計提案で勝負したいという意識が芽生えている。建材流通の多段階構造に消費者自身が疑問を感じ始めているのも追い風となっている。

 

限られた予算の中で、お客様の個別のニーズに応えようとしたら、メーカーの既製品の中から選ぶより、材料や設計の工夫でオリジナルなものづくりをするほうがはるかに安く、また高い満足度を得ることが出来る。解体された古材や、加工場の隅に捨てられている端材でも、新しい命を吹き込むことが可能だ。実際に使ってみると、建物の表情が豊かになり、年を経るにつれて工業製品にはない味わいがでてくる。

 

しかし、この番組に登場している「匠」たちの仕事を手放しで評価できるかというと少し疑問の余地もある。あまりに『劇的』ということにこだわりすぎて、空間の質的変化を追い求め、エスカレートさせすぎないだろうかという懸念である。スタジオのセットを斬新なデザインに変えるのとは訳が違うのである。当然のことながら、耐震性をおろそかには出来ないし、吹抜け空間で部屋中が明るくなったから、光熱費はいくら掛かっても構わないということにはならない。番組を見ていても、真冬は大変寒いだろうというものや、生活し始めて使い勝手の悪さに、当初設計者が意図したものとは違う使い方をされるだろうと感じるものも少なくない。

 

私も社会人のスタートは店舗の設計施工を手掛けていたので、スケルトン(躯体)とインフィル(内装)を分け、インフィルをリニュアルするだけで劇的に空間が変わることを何度も体験してきた。ニューヨークのブロードウェイの舞台芸術に刺激を受ける店舗デザイナー達もたくさんいたが、スケルトンの強度や性能に安心感があってこそのインフィルということも忘れてはならない。すなわち構造のバランスや断熱性能など基本はおろそかにできないということだ。

 

来年も宜しくお願いいたします。
<次週はお休みします>

納屋を解体して新居を建てる現場。使えそうな梁を吟味し、実際に装飾として新居に利用した。
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