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若本修治の住宅コラム

2003.1.27 第12話

高付加価値

以前から『高付加価値』という言葉は良く使われてきた。どこでも入手できる製品やサービスではなく、お客様から指名されるオンリーワンの技術やサービスを開発することが競争社会の中では重要だ。そのためには『高付加価値』で差別化するという、分かったような分からないような言葉が独り歩きしているような感じがしている。

経営者の立場から見た『付加価値』とは、お客様に提供する価格と仕入原価との差額、つまり”粗利”のことを指す。自社が何らかの価値を提供することで、粗利益を得ることが出来る。逆に何も価値を提供していなければ、仕入れに利益をのせて販売することは道理に合わない。しかし、口利きだけで価値を提供せず利益を得ている企業も少なからず存在する。

住宅業界も、他の業界から見るととても付加価値を提供しているとは見えない企業が、全体のコストを押し上げているという人が少なくない。現場で汗を流し技術をもった職人たちは決して大きな収入を得ているわけではないのに、汗も技術も提供していないところに建設費用の多くが抜き取られているのではないかといった疑問である。このたび相談を受けたお客様もそんな人たちのひとりだ。

キッチンにはかなりこだわりのあるそのお客様は、自らの足でさまざまな住設機器メーカーのショールームを回り、最終的には佐伯区の家具製作会社で特注のキッチンをつくることに決めた。どのメーカーも高価格帯になれば変わらないが、ボリュームゾーンの価格帯では満足いく品揃えがされていないということだった。メーカー側は、だから高付加価値によってこだわり層を取り込みたいのだろうが、同じ仕様で特注しても、中小の家具製作会社では半額程度で出来ることが分かり愕然としたというのだ。

家電や自動車、精密機械などは、国際競争にさらされ、研究開発コストも莫大な金額になる。しかし、建材や住宅設備機器は特殊なものを除き、資本力のない中小企業でも完成品を出荷することが出来る。カタログ不要で中間の流通業者がほとんどなく、無駄な人材やショールームなどの固定費がかからない中小企業のほうが、材料や技術にかける費用を大きく出来る。不安なのは、技術よりもむしろ、要望を聞き取るヒアリング力とそれを具現化するデザイン力だ。

お客様の要望を引き出し、それを形にするために、設計図を引き加工して完成品をつくる。この部分に知恵や経験、ネットワークを駆使し、他では入手できないものを提供するのが『高付加価値』だ。単に要望をそのまま伝え、知恵も技術も提供しないのは、情報が電子化されれば不要な存在でしかない。CADに入力された部材データが、メーカーの受発注情報として電子データ交換(EDIといわれている)されれば、中間の卸や販売店は介在する余地さえなくなってくる。この電子商取引はブロードバンドによって、飛躍的にそのコストが下がっている。

住宅のコストダウンも、贅肉のようについた、にせものの付加価値を削ぎ落とすことが重要だ。CMサービスも単に競争入札でコストダウンするという表層的なものではなく、価値を生まないものは効率化していくことで、施主も住宅生産に携わる業者・職人にも恩恵がもたらされることを目指している。それこそが『高付加価値』といえるのではないだろうか。

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