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若本修治の住宅コラム

2011.2.22 第57話

クレームの低減は「図面」にあり!

住宅業界は長らく『クレーム産業』と言われてきた。それほどこの業界のほとんどの人がクレームを経験しているということだ。これは、例えば自然素材を使いたいといって、無垢材が少し反ったとか、左官仕上げが収縮でひび割れが出来たといった、素材の性質上完全には防げないものもあるが、素材や仕上げといったもの以外のほうが多い。素材のクレームについては、事前にその可能性を説明しておくか、例え変形しても目立たないような素材の使い方を工夫するなど、ある程度防ぐことは出来る。それ以外のクレームがなぜおきるか、それが問題である。

 

クレームの多くは、伝達ミスによるものだ。住宅の建築には、営業から設計、コーディネーターから現場の職人さんに至るまで、延べでは大変多くの人々が関与する。しかし、その多くはお互い一面識もなく、また直接お客様の要望や設計者からの指示を聞くこともなく、多くの又聞きで仕事を進めていくことになる。10人で伝言ゲームをすると、直後に伝えていっても全く内容が異なって伝わることは少なくない。それが、メモも取らず場所も時間も変えて電話や口頭で伝えても正しく伝わるはずがない。

 

私がコンサルタントの仕事をしていた頃、ある工務店から完成見学会をしたいので応援して欲しいと申し出があった。早速上棟が終わったばかりの現場に赴き、その工務店の家づくりの考え方などを確認して事務所で打合せを始めた。まずは図面を見せて欲しいと出してもらった平面図が、どうも現場で見た間取りと違うような気がし社長に確認すると、「施主の希望で変更になったから、こちらが新しい図面だ」と別の設計図を出してきた。比較すると確かに間取りは変更されているものの、作成日ほかは全く同じもので、打合せをした本人以外はどちらが新しい図面か分からないものだった。

 

同じ日付で内容の違う図面が、それぞれ専門工事業者のもとに行き、口頭だけで変更指示し、孫請けや応援で指示の伝わっていない人達が、現場で何を元に施工を行なっていくのか・・・。極端な例と思われるかもしれないが、これが住宅業界の実態でもある。本来は設計図の通りに施工を行なっていくのが監理であるが、きちんとこまかい指示のない設計図や、訂正日・訂正内容の記載のない承認図がいかに多いことか。戸建住宅では展開図を描かない会社も多く、施主が図面から空間を想像することは出来ないと思ったほうがいい。空間のイメージが湧いていないから、完成間近になって「私たちは素人だからきちんと説明してもらわないと分からなかった」となってしまうのだ。

 

クレームの少ない企業は、やはり設計図書がしっかりとしている。施主が確認する「承認図」とは別に、現場の職人たちにも分かるように50分の1の詳細図や20分の1の納まり図、各部屋の展開図、設備図面や伏せ図、家具図面まで揃っている。図面には打合せを反映した指示が書き込まれ、誰が施工しても間違えようのない図面が用意されることが理想だ。

 

そこまで図面が描き込まれているということは、施主とのコミュニケーションが密だった証拠でもあり、クレームになる確率は格段と少なくなる。図面の精度が低いまま施工しているから、施主との打合せもいい加減で済ませ、結果としてコミュニケーション不足となってクレームに繋がる。そんな悪循環からそろそろ抜け出したい。

 

どれほど高名な建築家でも、意匠図だけでは現場の職人たちは設計意図を理解できない。現場は設計者の事例写真(建築家は「作品」という)を見て施工するのではなく、設計図を見て施工している。だから図面が大切なのだ。

建築現場に広げられた図面。職人さんたちは最終図面としてチェックしている。
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