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若本修治の住宅コラム

2013.6.20 第85話

それなりに「こだわった」街並みの結果は・・・

昔から「向こう3軒両隣」といって、ご近所づきあいのほか、住環境や街並みも「3棟が一単位」となって住宅地の景観にも影響を及ぼしている。つまり、雰囲気のいい街並みをつくろうとしたら、最低3棟連続した家のファサードを整える必要がある。同じデザイナーが外観のディティールを統一して設計すれば、少なくとも日本の従来の住宅地のようなバラバラでちぐはぐな印象は拭えるだろう。

右下の写真は、JR広島駅に近く、比治山の山影となって原爆でも古い街がそのまま残った再開発地区で、区画整理後に新しく建てられた3棟の住宅。ご多分に漏れず、区画整理後の住宅建設には、大手ハウスメーカーやマンション業者が営業攻勢をかけ、近隣ではプレハブメーカーのフラット屋根や寄せ棟屋根、賃貸マンションから建築家風の片流れ屋根など、建物の高さも屋根形状も全くバラバラ。それを思えば、道路に対して屋根の妻面や玄関が正面に向き、同じような雰囲気の家が建ち並んでいるようにも思える。

どの家も、建売で良く使われる『窯業系サイディング』をつかっているようでもなく、バルコニーは屋根を架けるか壁で覆うなど、それなりに配慮して施主の要望を形にしたことを感じさせる。好き嫌いは別としても、外観にも施主のこだわりに応えて設計側が工夫をした跡も見られ、建築費も「それなり」に掛かっていることを伺わせる。しかし掛けたコストや施主・施工者(設計者)のこだわりに比べて、実際に建ち並んだ家3棟を俯瞰して見ると、日本の住宅供給の現実と問題点が、ここに集約しているように感じる。

『コーポラティブ方式』を試そう!

区画整理された住宅地では、道路や公園用地などに土地が減歩され、元の所有者に『仮換地』として住宅用地が割り当てられる。現状では、それぞれの土地所有者が、自ら設計者や施工者を探し、或いはハウスメーカーやゼネコンの営業マンが、地権者を戸別訪問して営業活動に当たって、業者が選ばれている。たとえ隣同士であっても、まったく意匠も建築様式も異なり、設計者や施工者も異なる住宅が建てられるのが現実だ。そこにたとえ『景観条例』があったとしても、それぞれの設計者がお互いの意匠をチェックすることも、外観デザインを調整する機能もないから、隣の家との調和を考えた街並みなど出来ようはずがない。
1棟1棟が、どれほど著名な建築家によって設計されたとしても、お隣は違う設計者が個別に設計している限りは全体として調和のある街並みにならないのは明らかだ。

本来であれば、区画整理組合によって道路や宅地の境界・区割りだけでなく、街全体の「マスタープラン」や具体的な「アーキテクチュラル・ガイドライン」が定められることが理想だ。その上統一感のある街並みを「経済合理性」を高めて発注しようと考えたら、住民同士が建設協同組合をつくって、コーポラティブ方式で設計者や施工者を選定、まとめて発注する方が、現在よりもはるかに建設コストを抑えて、統一感ある街並みをつくることが可能だろう。

これまで隣同士の敷地でも、誰が購入し、どこが建てるのか分からなかった日本の分譲地でも、最近では大手ハウスメーカーがまとまった用地を確保し、通りから見た『景観を意識した住宅街』をつくるようになってきている。
そこには地元工務店のつくる家は入る余地がなくなり、売れ残った土地に工務店各社が「差別化」や「個性化」を競うから、さらに『歯並びの悪い景観』が増幅されていく。

今のままでは日本の工務店が建てる家は、街並みへの配慮に欠けることが定着し、大手ハウスメーカーを利するだけの争い。そろそろ脱皮しなければ工務店の未来は開けない。

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