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若本修治の住宅コラム

2013.10.20 第89話

持続可能な住宅地の開発とは

21世紀に入り、日本でも『サスティナブル』や『ロハス』、『エコロジー』といった環境を意識した言葉がずいぶん使われるようになってきた。地球環境への負荷を最小限にし、健康で精神的豊かさを求めて、持続可能な社会をつくっていこうということなので、総論は賛成、しかし小手先の差別化として言葉を利用しているケースも少なくない。

世界の人口も去年10月末に70億人を超えた。60億人を突破したのが1999年というから、12年間で10億人が増えた計算だ。今後も人口増は止まらない。食料やエネルギー問題を考えると、小手先の差別化ではとても収まらないほど、日本の住宅業界も、本気でサスティナブル・ハウジングに取り組まなければならない時代になってきた。

しかし、今の日本の住宅産業をみると、宅地開発も戸建て住宅も小手先の差別化に終始しているように感じる。都市部の宅地開発は、土地を細分化して狭小地に一戸建て住宅を詰めて建てることが多く、建物自体は密集していても、土地利用の観点でいえば「高密度に活用している」とはいい難い。郊外の宅地開発は、相変わらず山を切り開き、木を伐採してコンクリート擁壁で固めたひな壇造成が主流。そこに長期優良住宅や省エネ住宅、無垢材を使った戸建て住宅を建てて『エコロジー住宅』として販売している。

一方、欧米の住宅地を視察すると、家の周辺には必ずと言っていいほど高い樹木が生えている。しかも都市近郊の住宅地は、一戸建ての住宅は少なく、緑地部分を確保するために、建物は連棟式のテラスハウスが主流となっている。連棟とすることで建物の密度を高めるとともに、エネルギーの損失を減らし、住宅地内により多くの緑地を確保して自然と調和している。1戸あたりの建築コストを下げることも出来るので、住宅ローンも無理なく返済が可能だ。

日本のように「建物単体」で省エネを考えるのではなく、住宅地全体で環境への負荷低減を考えているのが欧米の住宅地開発の主流になっている。都市自体も「コンパクトシティ」を目指し、中心部はビルも交通も高密度にして、インフラやエネルギー消費も集中している。逆に郊外には自然が残り、自然保護区や市民農園など、多様な自然環境が楽しめるようになっている。日本のように、郊外に行っても5階建てを超えるようなマンションが忽然と現れるといった光景は、欧米では見られない。日本でそのマンションが「オール電化のエコマンション」と広告されているのは海外の専門家から見たら異様だろう。

今年のジャパンホームショーに、北米のシアトルに事務所を持つ建築家のマシュー・コーツ氏が出展していた。数年前に北米を視察した時に、事務所や建築事例を案内してくれて、サスティナブル建築にも詳しい若手建築家だ。 彼が設計した邸宅をいくつか訪れたが、自然との調和や、窓から見える景色の見せ方がとても上手で、感銘を受けた。

日本が好きで、日本の仕事をしたいというコーツ氏の来日に合わせて、このたび私の仲間である日本の建築士を紹介し、共同プロジェクトの可能性を探った。日本人の彼は「意匠系」の設計者で、これまではサスティナブル建築にはほとんど無関心、コーツ氏の作風から「都心よりも鎌倉や湘南、箱根など自然が豊かな場所での建築が良さそうでは・・・?」とコーツ氏にいうと意外な答えが返ってきた。

「自然が豊富な場所、今更地になっているところや駐車場は、建物を建てないほうが環境への負荷を増やしません。サスティナブル建築が必要なのは、むしろエネルギー効率の改善余地の高い都心部、市街地のプロジェクトが有効です。」まさに、日本の住宅業界が学ぶべき思想だ。

ダブルスネットワーク(株) 代表取締役 若本修治(中小企業診断士)

シアトルの環境建築家「マシュー・コーツ」氏設計の住宅から見えるオリンピアの山々。
米国の『建築環境評価システム』LEEDで個人邸宅として初めて最高等級のプラチナを取得した建物。 建物の性能以上に、リビングから見た対岸のシアトルダウンタウンの景色が秀逸。
庭に出てカメラをズームした写真。実際には肉眼で見えるシアトルの高層ビル街から、 遠くに雪を抱くマウントレイニア(活火山)まで見渡せ、この景色を独占できる価値は何ものにも代えがたい。
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