広島で「家づくり」のお悩みごとを丁寧に解決していく(コンストラクション・マネジメント)CMサービスです。

メールでのお問い合わせは24時間受付中!
12時間以内にお返事差し上げます!

若本修治の住宅コラム

2014.5.20 第96話

表通りに背を向ける日本の住宅地

欧米の住宅地に限らず、家の顔である『ファサード』は、通りに面してその街並みを印象付ける重要な要素だ。なかでも玄関は、個々の住宅の外観デザインに欠かせない役割を果たしており、人の顔で言えば「目鼻立ち」と同様に、プロにとっては最も建物の表情づくりに注意が払われる部分だろう。しかし日本では玄関がそっぽを向いた家や、プライバシーを重視して通りに窓のないキューブ状の家も建てられており、街並みに不協和音しか与えない。

 

左の画像は新しく高台に開発された郊外住宅地。ご多分に漏れず『ひな壇造成』され、道路に面してコンクリートブロックの擁壁が築かれている。前面の道路はバス通りでこの団地のメイン道路のひとつ。歩道には街路樹も植えられ、将来街が成熟し木々が成長すると「並木通り」として通りを散歩する人たちも街並み景観を楽しめるというのが欧米の住宅地だ。しかし残念ながら多くの日本の住宅地は、経年変化で劣化、汚く風化していくコンクリートやブロックの肌合いが人を拒絶し、通りの価値を落としている。
欧米のように決して目を楽しませてくれることはない。

 

「ストリートスケープ」と「バックアレー」

 

画像の住宅地も、敷地は表と裏の両面が道路に面している。本来であれば南側のバス通りに面した側に擁壁を設けず道路幅ほどセットバックして、なだらかな傾斜として起伏を活かし、ファサードが並ぶと通りの表情が全く変わってくる。元々高台を切り開いた住宅地なので、あえてこの程度の高さの擁壁を築くと、土を埋め戻して擁壁の際は十分締め固められず、場合によっては地盤補強や改良工事が必要になってくる。そうであれば、そのコストを「セットバックする土地価格」に置き換えて、玄関までのアプローチの距離を取ったほうがよほど住宅地の格式が高まり、住環境も向上する。裏面の道路は生活用の「バックアレー」とすれば、少なくとも今よりも良好な住宅地になるだろう。

 

この通りに建っている住宅は、1区画ごとに抽選でモデルハウスを出展する住宅会社に割り当て、それぞれの会社が他社とは違う『差別化』したデザインや工法でモデルを建築している。特に最近「屋上庭園」が人気で、片流れの緩い勾配屋根にリーフバルコニーを設けている住宅がいくつか見られる。南面にはほとんど軒の出はなく、夏の日射対策や屋上防水のメンテナンスなど、他社との差別化に熱心な住宅会社には、将来施主が負担する維持管理や修繕に掛かる手間やコストを考慮しているとは思えない。まさに「売り逃げ」ととられても仕方ないような建物が、地元のテレビ局によって『最新の住宅モデル』として紹介され、オープニングイベントに多くの人々が来場しているのが日本の住宅販売の現実だ。そこには住宅購入者の資産価値を高めようという意欲も、美しい街並みをつくろうという意識も感じられない。

 

通りからセットバックして緑のプロムナードをつくることは、コンクリート擁壁を築くことと比較して土地分譲する価格がアップする話ではない。また通りに面して玄関を設け、調和あるストリートスケープをデザインすることも、現在の1棟ずつ「差別化」した住宅建築に比べて、むしろトータルコストは抑えられるだろう。しかも街路樹が大きくなり、通りが緑豊かになってくると、しっかりとした住宅地の管理が出来ている住宅地は、周辺の住宅よりも魅力が高まり、より高く売買される好循環が期待できる。

 

住宅の資産価値を高め、中古になっても高い価格で売買される住宅の条件は、日本人が気にする「建物単体の性能」や「床面積」よりもランドスケープなど街並み全体の住環境が大きく影響する。だからこそマスタープランが大切だ

広島市郊外の新しい住宅団地。バス通りに面してブロック擁壁があり、メイン通りに背を向けている。
広島市の郊外で分譲されている住宅地。バス通りにはブロック擁壁が築かれ、勝手口が設けられる。通りにお尻を向けた状態の街並みがつくられている。
米国シアトル郊外の高台にある住宅地。ブロックの擁壁はなく、通りに向いて建物のファサードが並んで、景観をつくっている。
一覧に戻る