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若本修治の住宅コラム

2014.7.20 第98話

史跡名勝周辺の美しい街並みとは・・・

富岡製糸場が世界遺産に登録され、史跡名勝や伝統的建造物群保存地区など、歴史ある建物が地域の「観光資源」として経済効果をもたらすことが、今や広く定着してきた。しかし市街化が進む「既存の住宅地」の中で、歴史から取り残されたように建つ単体の建造物は周囲から浮いてしまい、歴史文化遺産としての価値はあっても観光資源としての経済効果はほとんど見込めない。だから観光アピールのための経済効果を考えれば、「建造物群」として周辺の街並みも含めた“通りの景観”を整えることが必須だ。

 

画像は私が住む広島市から一般道を走っても1時間圏内にある山口県岩国市の錦川に架かる名勝『錦帯橋』と川沿いに新しく分譲された大手ハウスメーカーの住宅群。世界的にも珍しい木造のアーチ橋は、地元岩国市が世界文化遺産登録を目指して活動しているにも関わらず、錦帯橋や岩国城が望める下流の橋から見える川沿いの街並みは、何ら景観を保護する規制も、建築協定も存在しないように「鉄骨系プレハブ住宅」の無機質な外壁が並んでしまっていた。

 

ストリートスケープと周辺環境との調和

 

実際にこの住宅地周辺を歩いてみると、ひとつの街区内に22棟の一戸建て住宅とコンビニエンスストアがあり、全て同じ大手ハウスメーカーによる住宅が立ち並んでいた。川沿いには10棟の建物が並び、それなりに「総合設計」をして少しずつ表情を変えながらも、外観は統一感のある住宅群になるよう意識したのだろう。恐らく全て建築条件を付けたうえで、この街区だけ外界と切り離して、自社の同一シリーズの住宅で街角を形成しようと努力したことは感じられるが、景勝地であるこの周辺のロケーションを無視したとしても、決して魅力を感じる街並みになっていないことに、日本のプレハブ住宅の限界を感じさせた。

 

22棟の建物は、団地内に設けられた「位置指定道路」に面してオープン外構になっていて、屋根形状も他の既存住宅地に面した旧道沿いは「切り妻屋根」、そして位置指定道路と川沿いに面した建物は「寄棟屋根」に統一されている。また外壁ラインもセットバックしているから、団地内に入り込んで街区の外の建物が視野に入らなければ、それなりに“意欲的に開発をした分譲地”だということが感じられる。恐らく日本を代表するハウスメーカーとして、その事例がカタログ等でも紹介されてもおかしくないようなボリュームの「ストリートスケープ」が計画され、付加価値を付けて周辺より高額な販売が出来たと想像される。

画像中央の山の頂上に見える建物は、吉川家が築城した岩国城。この城への橋が錦帯橋。

 

しかし実際にこの住宅地があるのは「錦帯橋」という“木の技術と文化を楽しむ景勝地”に隣接し、遠方から観光客が期待して訪れる「宿場町」のような歴史あるエリアだ。豊かになった今の日本で、巨大企業になったハウスメーカーが、総合力を発揮して計画した街並みよりも、数百年間、地元の棟梁や大工が設計図書もなく、経験と技術でつくってきた街並みのほうが、100年後も残したくなる景観を提供できたであろうということが、このロケーションに立ってみると感じられるから不思議であり残念でもある。遠方から訪れた観光客も、きっと同じ感情を抱くだろう。

 

もちろん一般市民が自らお金を負担した個人住宅なので、周辺の景観を守るために、追加負担までして古い街並みに調和のとれた外観の家にする必要はない。行政も個人資産である住宅のデザインに口出しすることは難しいだろう。しかしこれだけのまとまった住宅地で、周辺の景観にマッチした総合設計を行えば、観光資源になるような住宅をもっと安価に供給することは十分可能だ。地区詳細計画などの「建築ガイドライン」をつくり、地元工務店により米国のようなCMを採用して木造を建てれば事足りるだろう。

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