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若本修治の住宅コラム

2015.2.20 第105話

『どん欲な不動産業者』と『エゴを優先させる購入者』

ここ数年下がり続けていた住宅地の価格が、大都市圏だけでなく仙台・広島・福岡などの地方都市圏でも反転し上昇したというニュースを目にした。長期的には需要は減っていき、空き家や空き地が放置され、都心部はコインパーキングが増殖している状況でも、良好な住宅地は慢性的に不足し、限られた「残りの椅子」を狙って、椅子取りゲームならぬ土地取引は白熱しているようだ。

 

先日地鎮祭でお世話になった宮司さんと世間話をしていると、海の神様を祭るその神社の近くで、地元では大手にあたる不動産業者が20区画程度の宅地造成を行い、近所の人たちが「大丈夫だろうか?」と心配しているという。詳しく話を聞いてみると、その土地はマリーナサイドで、すぐ隣は広島湾から採れたカキを加工する『牡蠣小屋』がいくつも並んでいて、冬は「牡蠣打ちの音」で日中はうるさく、夏は「牡蠣や磯の臭い」で漁師以外近寄る人はいないということだった。

 

さらに聞くと、その土地には老人保健施設の進出計画もあったが、そのような状況でもあり、補助金を利用して建てる福祉施設には許可が下りなかったという。もちろん、巨大地震の津波を想定すると、容易に避難できない不特定多数の高齢者を収容する施設としては、好ましくないロケーションだということだったのだろう。その空き地に目を付けたのが、どん欲な不動産業者だったのだ。

 

大きな自然災害が毎年のように発生し、また都市部では下水処理の容量をオーバーして、道路が冠水する事態も起こっている。今夏も茨城県常総市で発生した豪雨による鬼怒川の堤防決壊など、犠牲者や数多くの建物倒壊・流出を招いたのも記憶に新しい。このような災害は単に自然の猛威による被害というよりも、むしろ危険が認識されるエリアに住宅を建ててしまったということが大きいだろう。それは不動産業者や建築業者というプロの責任であり、さらにいえば建築許可申請を受理した、地元自治体の責任も小さくはない。ハザードマップ等の整備で、危険性のある地域だということを誰よりも早く認知するのは自治体だ。

 

一方、このたびの事例は「ウォーターフロント」という水際とはいえ、近隣住民も自然災害においては、同じような条件の場所に数多く住んでいる。問題は「臭い」や「騒音」等の生活環境が適しているかどうかが問われている。土地取引のプロである不動産業者は、明らかにこの状況を理解した上で、宅地として分譲しようとしているのだ。入居後にクレームが出るのは火を見るより明らかだろう。

 

しかし、このような住宅地を購入した側にも問題がないわけではない。実際に「空港周辺」や交通量の多い「国道バイパス周辺」「葬儀場脇」など、初めからそのような忌避施設があることを分かっていながら入居して「騒音がうるさくて眠れない」とか「許容限度を超えている」と訴えを起こす住民も少なくない。米国で1980年代「ニンビー(NIMBY)」という言葉が言われ始めた。”Not in my back yard”の略語で「自分の裏庭でなければ」という『自分のエゴのみを優先させ、コミュニティのことに全く興味を示さないような人々が増えた』ことに懸念を持つ言葉だ。

 

このような現象は、プライバシーを重視し過ぎてお隣がどのような人であろうが関係ないという住宅地を増やしてしまったことと無関係ではなく、その後ピーター・カルソープらによるTND(伝統的住区開発)という宅地開発の理論が登場した。つまり、住民のエゴや自然災害における被害拡大には、我々が供給する住宅のロケーションや開発手法が大きな影響を与えているということだ。そして都市計画や建築許可を扱う自治体に大きな責任があるだろう。

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