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若本修治の住宅コラム

2015.1.20 第104話

伝統的街並みを守るための創造的破壊

今、比較的元気のある地方都市は、世界遺産やNHK朝の連続テレビ小説、大河ドラマなど、「歴史ある伝統的な街並み」が一部に残っていることを逆手にとって、観光客の流入増加や大都市圏からのJ・Iターンなど社会増に繋げている。どこに行っても同じような『ファスト風土化』して衰退した町は、そこの出身者にとっても魅力がなく、逆に空き家が増えていても、懐かしいノスタルジーを感じさせる風情や家賃の安さ、地元の人たちの温かさなどのある町が、ネットや口コミで移住や観光客を増やしている。

 

しかし実際にその街を訪ねてみると『伝統的建造物群保存地区』であっても最近建替えられたような普通の住宅が点在し、保存地区を少しでも離れると、プレハブメーカーの家はおろか、賃貸アパートや分譲マンションも普通に建てられている。電柱や電線も空を切り裂き、少し大きな敷地で相続や事業承継がうまくいかなければ、空き家が放置され、駐車場に変わるか不動産業者が購入し、マンションや建売用地として姿を変えてしまうケースが後を絶たない。

 

伝統芸能に学ぶ「創造的破壊」

 

今の時代「伝統的な街並みを守ろう」とか「保存しよう」と頑張っても、新しく建てられる家や近隣の開発による“異質な建物の浸食”は止めようがなく、条例や建築協定ではとても守れそうにない。昔から形成されてきたその街独自の美観の維持は経済的にも困難を極める。昔街道沿いで賑わっていた中心街だったからこそ、そのような建物群が残っているのであり、所有者の多くも資産家だ。だから不動産業者やハウスメーカーの営業マンにとってみれば、所有者に日参してでも、何としても取引したい相手となる。建物を受注すれば「自社のランドマーク」になり得る有望物件がこのようなエリアには点在し、資力に物を言わせても出来るだけ自社物件を数多く建てたいと画策している。

 

伝統芸能や人間国宝をイメージしてみると、このような伝統的な街並みを残すためのヒントが見つかる。「昔のまま時代の流れに抵抗し、姿かたちをそのまま残そう」としても次第に色褪せ、魅力を失っていくのは必然だ。歌舞伎も元々は『傾く(かぶく)』から来ており、封建的な社会で常識はずれな恰好や振る舞いをする「時代を先取りする」芸だった。雅楽や能・狂言、茶道や華道など、さまざまな日本の伝統芸能も、時代時代にあわせて”変化”をし、伝承者が魅力を高めてきた。だから今の時代にも大衆に尊敬され、貴重な日本文化として残って来ている。伝統芸能は「古いものを保存しよう」という意識より、常に「変革(=イノベーション)しよう!」と『攻めの姿勢』を貫いてきたからこそ、国内はもとより海外からも評価されるのだ。

 

街づくりにおいて、伝統芸能の「家元」や「流派」にあたる役割を誰が担うのか?それは「代々から引き継がれてきた技能を活かしながら、時代にあわせて少しずつ(決して急激ではなく)新しい要素を付加し、修正を加えることで、また新しい価値を創り出していく」という役目だ。今、私たちが目にすることの出来る伝統的な街並みも、城主など時の支配者の意思と大工棟梁の技能・技術があったからこそ時を超えて遺され、地元の人たちにも大切にされている。

 

我々今の日本の住宅業界に携わる人たちが、余りにも伝統工法にこだわり、数寄屋建築や古民家建築に傾倒しても、日本の建築技術や街並みを守ることは出来ない。むしろ新しい技術やデザインを取り入れ、遠い未来の子孫たちに「美しい街並み」だと感じてもらえるような通り(街路)を計画し、中途半端で無秩序な『無国籍な住宅デザイン』から卒業するべき時代が来ている。昔栄えた欧米の小さな町が、いま観光で賑わっている歴史がそれを証明している。

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