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若本修治の住宅コラム

2015.6.20 第109話

電柱設置からスタートする日本の住宅地開発

私が住む広島市郊外で、高台を切り開いて巨大な住宅団地が造成されている。すでに3千世帯を超える住宅が供給され、さらに高台の山を切り崩して人工的な平坦地に、宅地が小さく区割りされ分譲されていく。開発前にあった起伏や山々の自然は従前の姿をかき消され、道路や上下水道、電気やガス等のインフラ工事が先行して進められている。

 

そこには自然の地形を活かして変化をつけようとか、開発前の自然の植生を移植し、人工的にでも入居者に対し自然の中にいる喜びを感じてもらおうという開発者側の配慮は微塵も感じない。まるで『鶏舎』のケージの中で飼われるブロイラーのように、効率を重視していかに多くの住宅を詰め込むか、そんな殺伐とした無機質な区画が目の前に広がり、ここに夢と期待を膨らませて住宅を購入しようとする人が気の毒にさえ感じられてしまう。しかし、これが日本で開発されてきた多くの大規模分譲地開発の実態だ。

 

共同溝による電線の地中化が出来ない理由は?

 

敷地の区画割を見るだけで興ざめになる分譲地で、さらに追い打ちを掛けるように、濃いこげ茶色の電柱が規則的に立てられていく。その後はご想像の通り、電線が張り巡らされ、青空のスカイラインは何本もの電線でブツ切りにされて、新たな入居者が迎えられる。住宅建築がスタートする頃には、まるで電線が蜘蛛の巣のように住宅地を取り囲み、建築時にはクレーン操作のじゃまになるから、電線には工事用のカバーが取り付けられる。電柱や電線があることで、まったく住宅地の景観は台無しだ。

 

既存の市街地や道路の幅が確保できない地域では、電柱を無くし電線を地中化するのは、工事だけでなく権利関係も大変かも知れない。すでに上下水道が整備され、ガスも敷設されている場所では、電力会社にとってはメンテナンスも含めて電柱を立てるほうが経済合理性もあり、住民の負担も抑えられるのだろう。しかし山を切り開いて新たにインフラの設計が出来る大規模分譲地になれば、事情は異なるはずだ。中心部への回帰が鮮明になっている住宅事情の中、中心部のマンションとの競合で、郊外の分譲地を選んでもらうためにも、身近な自然を感じられるような起伏に富んだ地形や大きな街路樹、緑豊かな公園に、地中化された電線は、購入希望者に大きな魅力となって映るだろう。

 

仮に共同溝に電線を敷設するよりも、今のように電柱を立てて、空中に電線を張り巡らせるほうがはるかにインフラ工事費を抑えられるとしても、500戸を超えるような規模の分譲地で、敷地購入者が負担するインフラコストの増加分は、開発の計画段階でしっかりとコストマネジメントすれば、販売価格に大きな影響は及ぼさないのではないだろうか?むしろ、土地を安くしても購入者に魅力が伝えられず、結局営業力のある大手ハウスメーカーに牛耳られて、土地価格を下げ、建築条件付きで割高な住宅を供給している現状こそ問題だろう。それは開発業者の利益を流出させ、分譲地の魅力を低下させた上に、開発業者の社会的な地位もおとしめて、購入者には過大なローンを組ませるという「最悪のシナリオ」「悪循環」を再生産しているだけだ。

 

住宅地を開発するデベロッパーが、地域社会に尊敬される存在になるためには、「良好な住環境」を提供し、資産価値が上昇するように、固定費負担の小さな「地域の工務店」に施工を担わせて、街並み景観を魅力的にしていく努力が欠かせない。そのためにも、建物が建つ前の段階で、電柱や電線が張り巡らされるような計画は見直し、土地と建物のトータルな販売価格が、入居者の年収の3倍程度で収まるよう、アフォーダブルで価格的にも環境的にも魅力的な宅地造成とインフラ整備を望みたい。

広島市郊外に開発される大型団地

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