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若本修治の住宅コラム

2015.7.20 第110話

空からみた中山間地と地域のダウンサイジング。

私が住む広島は、空港が中国山地の中に設けられているということもあり、飛行機に乗って上空から日本列島を眺めると、様々な思いが頭の中を駆け巡る。田中角栄内閣で「国土の均衡ある発展」として『日本列島改造論』をぶち上げて以降、人の手が入っていない「未開の地」がないほど、開墾や植林、道路・ダム建設、集落の点在が見られる。

 

今、過疎化が進む中山間地も例外なく人の手が入り、まるで“自然に対してナイフで切りつけて”開墾されたような集落も見られる。この状況で人が住み続ける限り「土砂災害のリスク」は避けられないだろう。逆に言えば、人口が大幅に減り、耕作放棄地が増える中、このような山の中に人の暮らしがあることが、単なる豪雪や土砂崩れでも「被災者」を出してしまい、孤立する集落からの被害者の救出や、被災地の復興に多大な費用を負担しているのが現実だ。

 

自然が豊かな日本列島で、すべての山林や田畑、土地が人間のものという発想をそろそろやめて、太古の自然に戻すところと、人の生活を守ることが容易な場所を分けて、計画的に「ダウンサイジング(集約・縮小)」していく時代に差し掛かっているのではないだろうか。先祖代々の農地や墓を守っていきたいという個人の想いは尊重しても、このまま点在した集落を維持するためのインフラ整備や住民サービスが続けられるとは思えない。それは地上から感じるよりも上空から見れば一目瞭然だ。

 

コンパクトタウンが「守ろう」とするもの

 

地方創生が掲げられ、日本全国津々浦々まで景気の波が及ぶように政策が総動員されようとしている。平成の市町村大合併によって併合され、周辺部になってしまった町村も、町勢を維持するため合併特例債や交付金による公共事業を熱望し、中心市街地との格差是正を声高に叫んでいる。しかし人口減や高齢化、過疎と不動産価値の低減は進む一方だろう。だからこそ企業が「集中と選択」をするように、地方都市も「コンパクトな町」にダウンサイジングするしか生き残れない。密度の高い中心市街地や周辺部をつくることで地元の賑わいを取戻し、不動産の価値を少しでも高めること、そして効率よい住民サービスが求められている。

 

東日本大震災からの復興で、最初に仮設住宅から新しい住宅地に移転できたのは、宮城県岩沼市の玉浦地区だったという。行政主導でつくられた計画ではなく、住民主導で「自分たちの町の将来」を考えてもらうワークショップを何度も開催し、行政はそのサポートに徹した。時間を掛け住民のコンセンサスを大切にしたことで住民同士の連帯感が高まり、良好なコミュニティが再生されて、どこよりも早く集団移転が完了したようだ。住民自らが現実を踏まえて持続可能な将来を選んだからこそ、住民同士が感情的になることなく、未来に期待が持てる復興となっている。

 

だからコンパクトタウンも、紙の地図上で議論し行政主導の計画で移転を促すのではなく、実際の上空からの景色を映像で住民たちにみてもらい、本当にこの状況を全て将来にわたって維持可能なのか、本人たちに考えてもらうことからスタートしたほうがいい。お互いの損得から故郷に対する感情まで、情緒に流されて大論争・大反対が出たとしても、次第に現実に戻され、最終的には「何を守るべきか」を人々が考えるようになってくるだろう。

 

災害からの復興やコンパクトタウンは、紙の地図上の地名や施設ではなく“人の暮らしやコミュニティ”こそ最も守らなければならない大切なものだ。もちろん“地域の風景”も守っていきたい大切な宝ではあっても、コミュニティが維持されれば、また新しい風景もつくっていけるだろう。その風景づくりの担い手が、私たち住宅会社の役割だ。

広島県尾道市の山間を空から眺めると、山裾に集落が点在しているのが見えた。大雨による土石流の心配なども含めて、空から見れば50年後もこれらの集落を守ることが行政に出来るかどうか、取捨選択をせざるを得ない時代になっている。

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