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若本修治の住宅コラム

2015.9.20 第112話

「ゴルフ場会員権下落」で考える住宅の資産価値

すでにバブル経済が崩壊して二十数年経つが、当時は不動産だけではなく、株式やゴルフ会員権なども一斉に値上がりし「早く買わなければ損をする」とばかりに普通の人たちでもお金を投じる人が少なくなかった。中には株主配当やゴルフのプレイ費によるメリット(インカムゲイン)を期待するよりも、短期で売買差益(キャピタルゲイン)を得ようとする「投機的な購入」も少なからずみられた。

 

レジャーやリゾートも下火になり、接待ゴルフも激減した。企業の業績も低迷してくると、ゴルフ会員権を持っていた企業経営者も次第に余裕が無くなり、会員権を手放そうというケースが増えてきた。ゴルフ場自体も来場者が減り、経営に行き詰って民事再生を申請する会社も出ており、株主や会員にとっては気が気ではない状況が続いている。会員権は早く売ってしまいたいものの、購入時よりも価格が大きく下落し損を確定させたくないという感情や、健康のためゴルフは続けたいという気持ちも入り混じっているのだろう。会員というステータスも捨て難いプライドだ。

 

「下落確実の土地」を売り続けるのか?

 

当然、ゴルフ会員権も「需給関係」の中で高くもなれば値下がりもする。会員権を購入する層は、社会的な地位もありお金にも余裕があるのが相場なので、もちろん値下がりリスクも自分が負う覚悟を持っていると考えるのが普通だろう。しかし実際には大幅な下落に憤り、裁判になっているケースも散見される。これが『住宅地』だったらどうだろう。ゴルフと同様に「そもそも楽しむのが目的なので、値下がりするのは仕方ないだろう」と考えてくれる人もいるだろうが、人口減少が本格化し自治体の半分が消滅すると言われる2040年に向かって、どれほど土地需要が減り、価格が下落するか想像するのは容易ではない。しかし土地を購入すればお客さんが「損をする」のはほぼ確実だ。

 

以前、住宅地の視察で神戸市の郊外にあったゴルフ場の跡地を用途変更し、住宅地として再生した現場に立ち寄った。まだ分譲開始してそれほど経っておらず、空き地も目立つ状態だったが、その場所はエベネザー・ハワードによる英国の『レッチワース』に学び開発された定期借地権付きの分譲と聞かされた。英国に滞在経験のある大学教授が計画に参画し、ゴルフ場の地形を活かしたガーデンシティを開発したと話題の住宅地という事前情報で、現地に到着後、期待してなだらかに傾斜した丘に建つ住宅を見て歩いた。

 

恐らく「定借(リースホールド)」という手段によって、手ごろな価格で広い敷地を確保し、周辺の緑を残して、敷地内も土地所有者が勝手に門扉を立てたり出来ないようにしたのだろう。電柱も地中化され、計画時には住民参加の公開講座を重ねて実施し、その後入居希望者を集めて何度もワークショップを行ったとされている。しかし実際にその地に立ってみる景色は、英国やアメリカで見るような美しく調和のある街並みではなく、ゴルフ場だった面影さえも感じられない。ひな壇造成はしていないものの、将来に亘って魅力を維持できる住宅地には見えず、入居後の取引が活発に行われる予感もしない丘陵がそこにあった。

 

単に「将来下落確実な土地を取引の対象にしない」というリースホールドの考え方や「住民のコミュニティを重視して、運営のルールを明確にする」といったソフトの充実以前に、建物自体が並ぶことで、魅力的な景観を形成し、常に高い需要が得られるようなマスタープランとアーキテクチュラル・ガイドラインがなければ、一般の購入者は見た目と価格でしか判断材料がないことに気づかされた。
海外の優れた事例を“表面だけ真似”て、つまみ食いをした住宅地は、ゴルフ会員権と同じ道を辿るのだろうか?

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