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若本修治の住宅コラム

2015.8.20 第111話

子育てにやさしい環境とは

今、日本の政治では景気対策はもちろんのこと、東京一極集中の是正が大きな課題になっている。地方の人口減を食い止めて地方に雇用を創出する『地方創生』が今後の政策の優先課題だ。地方の人口減は、高齢化によって亡くなる人々の増加は当面止めようがなく、人口のボリュームの大きい「団塊世代」が平均寿命を迎える頃まで続くだろう。
一方、対策が可能だとしたら、人口の「自然減」に繋がっている『少子化』と「社会減」に繋がっている若者の都市への流出だ。つまり地域の若者が地元で働き、地元で結婚して子育てをするような環境を整備することしか地方の人口減を食い止める方策はないといっても過言ではない。

 

もちろん今は大企業になった東京本社の創業の地への本社移転や一事業部門の転出など、自治体の熱心な企業誘致によって社会増も可能だろう。しかしグローバル化が進む中、労働賃金やインフラ整備、地域の潜在需要などを考えると、投資効率から言っても日本の地方よりも国境を越えての海外進出のほうが企業にとって経済合理性が高いといえる。だから経済合理性以上に「子育てしやすい環境」や「住み続けたい環境」を整えるしか流出は止められない。

 

すべては「住環境」から

 

まず少子化の問題で出るのが『待機児童の解消』など、子供を預かる環境が整っていないから「生みたくても生めない」という意見。もちろん晩婚化や経済的理由、夫婦間の関係など様々な要因があるが、昔と比べてそれほど子育ての環境が悪化しているのだろうか?むしろ「仕事」と「子育て」が両立しにくく、子育てが妻一人の負担になっている状況の改善こそが必要だろう。それは産休後の職場復帰や『イクメン』に代表される“夫の育児休暇取得”といった制度的な問題よりも、むしろ子育てが「孤独な環境で行われている」という母親の心理的影響も決して小さくない。

 

東京のように、通勤の往復で何時間も費やし、残業が当たり前の環境であれば、仕事と子育ての両立は容易ではない。プライバシーを重視した大都会の住宅地は、近隣との人間関係は希薄で、夫の帰りが遅くなれば、1人子供を産んだ時点で、経済的にも今の女性が次の子供が欲しいとは思えないだろう。ゼロ~2歳児を預けられる認定保育園の不足やベビーシッターなど、施設やサービスの問題よりも、この「若い主婦の孤独感」こそ、合計特殊出生率低下の隠れた課題であり、少子化解消の大きなヒントが隠されている。

 

この問題は、現在の首都圏ではほぼ解決不可能であり、逆に地方こそ大きなチャンスが眠っている。東京では困難な「通勤や残業に時間を取られない」ことや「地縁・血縁を含めた地域の結びつきを高める」という取り組みは地方では可能だ。地価や物価が安く、生活しやすい環境も首都圏にはない地方の強みだ。こう考えると、高度成長期から郊外につくられた画一的なベッドタウンではなく、通勤時間の短い「都市近郊」に、低層高密度につくられた、伝統的な近隣の住宅街がイメージされる。地域に商売人も高齢者もいて、地元でお祭りを開催するような「町内会」に若い人たちも参加しているような活気あふれる近隣住区だ。

 

まさに車よりも人間中心に開発され、近隣の人たちと触れ合う機会の多い、伝統的近隣住区開発(TND)の考え方だ。企業が撤退し、大規模な工場跡地や配送センター、自治体の公有地が利用されないまま、大資本の巨大商業施設や高層マンションを誘致するよりも、地元の企業で開発から分譲、将来にわたってのメンテナンスまで可能なTNDによる住宅供給は、地元にお金が循環(=雇用を創出)し、木造中心で低層高密度の魅力ある住宅地開発が、若者の流出を食い止め、子育てにやさしい環境の提供を可能とする。

米国フロリダ州オーランドでディズニーが開発した伝統的近隣住区型宅地開発(TND)の『セレブレーション』。敷地に余裕のある戸建エリアだけでなく、このようなタウンハウスエリアもある。住民が共有で利用できるコモンガーデン(共有の中庭)を介して、住民同士が顔を合わせる機会が多いため、自然と地域のコミュニティが生まれている。

広島市郊外の新興住宅地。団地内の通過交通がスピードを出せないよう、ボンエルフやバンフといった障害物を設けている。
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