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若本修治の住宅コラム

2016.1.20 第116話

コンパクトシティと市街化調整区域

今、人口減少や財源不足で苦しむ地方自治体で、郊外にスプロール化した住宅地を出来るだけ集約して、人が集まって住めるような「コンパクトシティ」構想が増加している。私の住む広島市も政令指定都市ながら、コンパクトシティ構想を打ち出している。将来のインフラの維持・メンテナンスやエネルギーのロスなどを考えると、行政側にとっても、出来るだけ人が生活するエリアを限定・集約して土地の利用密度も高くすることが望まれるだろう。

 

実際に環境を重視した「コンパクトシティ」の先進事例として海外の住宅地開発などを調べてみると、既存の市街地では土地の利用密度の低い「一戸建て住宅」は確認申請が受理されず、集合住宅か連棟式で敷地境界に接した連続住宅しか建てられないという都市も増えている。都心部では新規で一戸建て住宅を建てられないことが、中古(既存)住宅の需給関係を大いに刺激し、中心市街地に建つ住宅の資産価値を高めているという副次効果も出ているようだ。中心街と比べて、郊外に建てられた住宅の資産価値は低下が顕著なため、おのずと郊外の住宅団地開発も抑制される。

 

開発が進む日本の市街化調整区域

 

一方、コンパクトシティを宣言している広島市では、開発を抑制されてきた郊外の「市街化調整区域」に建築可能なホームセンターやコンビニ、ガソリンスタンドなどが進出し、昔あった田園風景はほとんど面影がなくなってきた。このような線引きがされる前からあった農家(民家)は残されているものの、例え農家の長男であっても、農家を継がないサラリーマンが実家の敷地内に新築を建てようと思っても建築許可が下りない。そんな厳しい規制がありながら、日用品などを扱うお店や医療・福祉関連施設であれば建築が許可され、全国のどこでも見られるような特長のないロードサイドの郊外の景色に変わってしまう。具体的な都市計画、緑地保護の不在が、貪欲な不動産業者によって貴重な緑と農村風景の喪失を加速化させているのだ。

 

すでに広島市も人口減少に転じ、戦後郊外の丘陵を切り開いて開発された大型団地では、急速な高齢化の進展と空き家の増加が社会問題化してきている。本来であれば、開発を抑制する「市街化調整区域」を広げて、これ以上郊外で無秩序な開発や建築を制限すべき状況になっているのにも関わらず、巨大な駐車場を有する大型商業施設の進出を許可するから、買い物の利便性が高まり、周辺でミニ開発による建売住宅の供給やアパート建設などが活発化してくる。広い敷地が売り物だった郊外の一戸建て住宅でも、住人の高齢化で売り出され、二分割、三分割されて無国籍なローコスト住宅が建てられるから、閑静だった住宅地は住環境の質も資産価値も落ちていくばかりだ。

 

人口増で住宅が不足する時代は、乱開発を抑制する「調整」という区域設定は効果を発揮したのかも知れない。しかし今や市街化を「調整する」という段階は終わり、一定の区域に関してはすべての建築行為を「規制する」とか「禁止する」エリアを設定してもいい時代ではないだろうか。むしろ積極的に「農地を保護」し、人工的にでも「緑地帯や農地を増やす」ことで、都市近郊で自然を体験できるようなビオトープや市民農園、生産緑地として計画的に「農地保全」に舵を切る時期に来ているように感じている。

 

建築の用途によって、建築の許可を与えている限り、決して昔ながらの農村の風景は守れない。むしろ車中心でロードサイド型店舗や福祉施設が進出するから、景観に配慮した街並みよりも、派手な看板と大きな駐車場ばかりが目立ち、のどかだった田園風景は一変してしまう。人口減で衰退しても壊した風景は50年間は戻ることはないだろう。

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