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若本修治の住宅コラム

2015.12.20 第115話

今こそTOD(公共交通志向開発)を学びたい。

私の住む広島市で、20年前のアジア競技大会で整備した新交通システムの延伸問題に決着が付き、終点の競技場前駅からJR山陽本線の西広島駅まで延伸することが決まった。今年、その新交通システムと立体交差していたJRに新しい駅がつくられ、通勤の乗換駅として『新白島駅』が供用開始されたばかり。これまで「釣り針状」で途切れている公共交通を「ループ状」にすることで交通の利便性を高め、乗車率を改善したいという意図が、20年間も凍結されていた計画を前進させた。しかし22番目の新駅も含め、駅前に賑わいのある施設を計画した事例は皆無だ。

 

また広島市と、合併せずに残っているお隣の海田町を走るJR線の高架化も、財政難で事業中止に追い込まれていたものの、アベノミクスによる公共事業拡大や、立体交差を2つの駅周辺だけにするという工事規模の縮小で、広島県の事業として再開されることが決まった。すでに駅前の区画整理は進み、従来から住んでいた住民は立ち退いて土地価格は高騰。JR駅前なのに「車のために人を押しのける土地活用」に陥っている。住宅用途では価格が高くて住みづらく、業務や商業の出店者は様子見状態だ。

 

「人」を中心としたTOD開発

 

「ニューアーバニズム」や「サステイナブルコミュニティ」を提唱しているアメリカの都市計画家ピーター・カルソープは、無秩序にスプロール化してしまった米国の開発の反省を踏まえて、それまでの“車中心社会”から脱却し、“公共交通機関や徒歩を中心とした街”に回帰しようと『TOD/トランジット・オリエンティッド・デベロップメント(公共交通志向開発)』というコンセプトを打ち出し、駅を中心とした街の計画を詳しく提示している。

 

TODの考え方は、公共交通機関の駅を中心に、オフィスや商業、娯楽、住居などを、街の規模や性格にあわせて一定割合の基準を設けて、持続的にその駅周辺が発展するような『近隣住区開発』をしようという発想だ。そこには「車がなくても生活に不自由しない徒歩圏の街をつくろう」というコンパクトシティの発想と、「地域に人とお金が循環する新しい都市像、街の形」を提案している。

一方で今回の広島の事例をはじめとして、特に地方都市の公共交通機関では、駅前は車での送迎やバス・タクシーの利用を前提にして、月極め駐車場やコインパーキングなど“車のために貴重な土地を譲る”計画ばかりが目立つ。若しくは、単なる車寄せだけがある交通量が多い道路に面して忽然と駅が設けられている。もっぱら買い物は駅から離れた巨大な駐車場を有する郊外のショッピングセンターに車で出掛けるのが、地方のライフスタイルになっている。

 

さらに最近の鉄道や軌道交通は、車の渋滞を避けるために『高架化』が避けられず、建設コストは高騰、多くは鉄筋やコンクリートに投じられ、周辺環境を悪化させている。車に乗らない交通弱者が利用頻度の高いこのような公共交通機関が、駅を高架にして多層化すれば、駅前からプラットフォームに到着するまでも従来の何倍もの時間を要し、高齢者や障害を持った人たちには「何のための公共交通機関か」分からなくなってしまう。幅広い市民のための公共交通機関ではなく、土木の投資が目的の公共事業を求める地元民の声に多大なお金が使われているのが実態だ。

 

TODの考え方を取り入れ、人を中心とした賑わい空間と高いアメニティを駅周辺に整備していけば、街が成熟するに従って人口も増加し、ほぼ確実に地価が上昇して、地方自治体も投資したお金以上のメリットをもたらすだろう。しかし公共交通機関離れを加速させる「車中心の開発」は、需要予測を下振れさせ自治体の負担を増やすだけだ。

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