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若本修治の住宅コラム

2016.6.20 第121話

景色に溶け込む建物と、スタンダードデザイン。

私が住む広島県は平地が少なく斜面に家が建ち、中山間地では耕作放棄地が増え続けている。しかし酒造メーカーも多く、郊外には意外と田園風景が残っている。そんな場所に建つ家はほとんどが「入母屋造りの農家住宅」で、広島では石州の赤い瓦屋根が点在する風景を目にすることが多い。山陽新幹線の東広島駅周辺から見える沿線の景色は、日本独特の「原風景」を彷彿させ、外国人観光客の目にも日本ならではの田園風景として脳裏に残るのではないだろうか?日本人でもノスタルジーを感じる景色だと思う。

 

しかし、現代の人は田舎の人でも地元の大工任せで入母屋造りの農家住宅を建てる人はいなくなり、多くの人が住宅展示場で家選びをするようになった。敷地の大きさも建物の規模も、希望する条件に当てはまらないモデルハウスを見て、全く周辺環境も異なる状況でどのハウスメーカーにするかを選んでいる。しかもその展示場の建設と運営には莫大なコストが掛かっていて、数年後には建設廃材としてスクラップ&ビルドされることが分かっている建物だ。
その経費を誰が負担しているのか?」という想像力も湧かないまま、冷静に考えればおかしなことが続いている。

 

日本の風景に似合うスタンダードデザイン

 

左の画像は田植えが終わり、梅雨に入って一斉に稲が伸び始めた頃に写した田園風景。農家住宅が立ち並ぶ中、新しい住宅が目を引いた。太陽熱を利用し、基礎部分に温風を送って補助暖房とする「パッシブデザイン」や、国産の間伐材を使った集成材を利用して、室内にも木をふんだんに使ってビニールクロスを極力使わない「エコ」をコンセプトにした、環境保護に関心のある人たちにも人気の住宅だった。テイストとしては「和」でもあり、総二階のシンプルなデザインは若い人たちにも受け入れられている。

 

日本国内の工務店や設計事務所にも一定のファン層がいて、単体の建物としては比較的高い評価が続いているこの住宅も、このような環境にポツンと置かれると、デザインの自己主張によって風景から孤立しているように感じられる。せっかくの田園風景を壊しているといっても過言ではない。日本の風景を愉しみに来た外国人観光客にとってみれば、あの建物の存在は、美しい景観を台無しにしていると映ってしまうかも知れない。それほど、私たち自身、建物が風景に与える影響に無頓着になってきている。現実的には、施主がこの景色に似合う入母屋造りを嫌う限り、どの工務店、設計事務所が依頼されても、景観を壊す方向にしか家を建てられないというのが今の悲しい状況だ。

 

しかし、自動車のモデルチェンジをみていても分かる通り、例えばプリウスが何度かのモデルチェンジを図る中でも新しく発売される新型車は、「どこかプリウスだと分かる」デザインが継承されている。初代から最新モデルまで、同じ車種だと分かる雰囲気は残し、時代に合った新しいデザインが取り入れられているから、ブランドイメージも維持されやすい。ポルシェやベンツなど、ヨーロッパの自動車は、やはりそれぞれのブランドイメージ、デザインは明確に確立・継承され、他ブランドとの違いは際立っている。

 

ヨーロッパでも土着のデザインが次第に洗練され、「ジョージアン様式」や「クイーンアン様式」など、クラッシックなデザインが確立された。日本の気候風土の中で一番建てられている土着のデザインは、入母屋造りの農家住宅。決して大手のプレハブ住宅ではなく、郊外の田園風景をつくってきた。その風景に違和感のない形で、新しいスタンダードデザインが確立されれば、クラッシックなデザインとして魅力ある日本の風景をつくれるのではないだろうか?それは地元工務店しか出来ない『情緒ある風景』だ。

入母屋造りで赤瓦の農家の中に建つ、現代和風の家。太陽の熱エネルギーを使うパッシブソーラーで、デザイン的にも「和のテイスト」で人気があるが、この空間では違和感を覚える。

入母屋造りで赤瓦の農家の中に建つ、現代和風の家。太陽の熱エネルギーを使うパッシブソーラーで、デザイン的にも「和のテイスト」で人気があるが、この空間では違和感を覚える。
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