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若本修治の住宅コラム

2016.8.20 第123話

人目を引くデザインと長く愛されるデザイン。

2020年に開催予定の東京オリンピックのメイン会場として国際コンペが開かれ、優秀賞となった新国立競技場の建設費が当初予定の倍以上に膨らみ、総理大臣まで巻き込んで大きな問題に広がった。イラク出身のイギリス人建築家による奇抜なデザインは、計画当初から景観や建築費に対する懸念が出され、日本を代表する建築家たちも、何度も見直しを提言していた。しかしその多額な建築費が一般市民まで知ることになり、社会問題化して初めて計画が白紙撤回され、ゼロベースの見直しが総理から発表された。

 

競技場や公共建築物に限らず、人の営みがある場所では必ず誰かがデザインした建物や構造物があり、それが街並みや風景に少なからず影響を与えている。19世紀までの建築は、外観を見ればすぐに建物の用途が分かり、宗教建築や王侯貴族の建物以外、奇抜なデザインを採用するケースはほとんどなかった。資本主義の発展に伴い、コマーシャルスペース(商業施設)が増えるにつれて、目立つことが優先され、奇抜なデザインで建築コストが膨らもうとも、それ以上の注目度や宣伝効果によって話題を集め、掛けたコスト以上にメリットを享受する『流行を追う建物』が増えてきた。つまりそれは「他との差別化デザイン」だ。

 

風景に溶け込む建物デザイン

 

自然の景観が、人々に感動を与えることはあっても、嫌悪感を与えることはまずない。その場所に立つと恐怖を覚えるような大自然でも、写真に収めると美しい景色が人々の心に残される。日本の古い集落や、ヨーロッパの中世の街並みが美しく感じるのは、その地域で採れた材料で、その地域の気候風土(=自然)に馴染む色や形状でつくられ、風景と同化してきたからだ。特に日本は四季折々の自然が楽しめ、古い社寺仏閣や日本庭園は、自然を借景としたり、自然と共生するデザインが数多く取り入れられ、日本を訪れた西洋人にも大きな影響を与えてきた。

お城や教会、寺院建築など、時代を超えて人々に愛され、今でも残されている建物は、美しい景観をつくって自己主張をすることはない。そのいくつかは「世界文化遺産」となって今でも現役で使われ、観光資源としてキャッシュを生んでいる。ローマのコロシアムをはじめとして、各地に残された円形闘技場などのスポーツ競技施設も、長い年月風雨にさらされながらも大切に残されてきた。

 

建物は、重力だけでなく地震や台風、竜巻や紫外線など、激しい自然の影響を受け続ける。だから重力に逆らい、これまで人々が見たことの無いような奇抜なデザイン、構造バランスを無視したデザインは、完成後も雨漏りや劣化が進み、崩壊に向かって維持コストが掛かり続けていく。
建築時のコストも施工者が「どうやって施工したらいいんだろう」と悩むようなデザインであれば、今の世の中で瑕疵や施工ミスによる訴訟リスクをさけるために、安全マージンを乗せ、断られることを前提で高い見積を出すことも少なくない。発注が決まらない段階で、詳細の施工方法もどの程度の手間がかかるかも、大きな建造物ほど見積を正確にはじけない。「やってみなければ分からない」というのが施工者の本音だろう。奇抜なデザインを選んだ段階で、手慣れた建築物の3倍の予算を計上しなければ実現できないのは、公共建築物だけではなく住宅も同じだ。

 

だから欧米の住宅は、誰が建築しても美しい建物になるよう『建築様式』が発達し、施工手順や仕様が標準化されてきた。見積ってみなければいくらで出来るか分からず、建ててみなければどのような建物になるか不安だという状況は発生しない。一方、今の日本の注文住宅は未だに購入者が建物のデザインもコストもリスクを負い続けている。

ドイツの地方都市フライブルクの街並み。建物の幅も色や高さも異なり、連棟で建物はくっついているのに、まるで音楽のように街並みに調和を感じる。

 

米国オレゴン州ポートランドで街歩きをしていると、このような伝統様式(ジョージアン様式)の建物に数多く出会った。
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