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若本修治の住宅コラム

2016.9.20 第124話

欧米人の住宅取得に対する「共通の利益」と「ゴール」とは。

結果を重視するアメリカ人と、プロセスを重視する日本人。望まない結果でも、プロセスが納得出来ればその結果を受け入れてしまうのが日本の美学でもあるが、逆に住宅に関して欧米との差が広がっている一因ではないだろうか。それは「結果(=ゴール)」の設定の甘さや執着心の差であり、欧米人にとっての“住宅取得のゴール”は『将来売却した時の販売価格』だということに現れている。

 

決して日本人のように“購入時がゴール”ではなく、売る時の結果で評価するのが欧米人の発想。大学進学も同様に、どの大学に入学するかよりもむしろ入学してからの勉強で将来どのような仕事を選ぶのかが大切だ。ゴールの設定は目の前ではなく、今の選択が将来どのような影響を及ぼすか熟考して決断するのが欧米では一般的だろう。

 

特に、平均的な米国人家族は7年程度で家を移り住んでいく。家に家族を合わせるのではなく、家族の成長によって変わるライフスタイルにあわせて、自分たちの「今の生活・負担能力」に見合う住まいを探すのだ。日本の注文住宅が「世界中であなたの家族だけにベストフィットする家を、オリジナルでつくります♪」という“心地よい響きのことば”の裏側で、家族構成が変わり負担能力が変わっても柔軟に対応できず、老後に部屋を持て余し、介護に改造が必要な住宅は「良好な結果(=ゴール)」とはいえない。

 

私がそのことに気づくまでに、20年以上の時間を要し、これまでの日本のゴール設定が間違っていたということがようやく分かって来た。自分たち家族の使い勝手や好みだけを反映した建物だから、売りに出しても他人には使いにくく安くしか買ってもらえない。ずっと持ち続けるしかないのだ。戸建てで7年も暮らせば、中古で売り出してもほぼ確実に1千万円以上価格が下がるだろう。だから30年も経てば建替えしたほうが良くなり、住む人がいなくなれば「空き家」として、市場価値のない住宅になるのだ。

 

合理的発想で、負担したお金に見合うリターンを期待するアメリカ人は、預金や株式運用よりも、住宅取得がもっとも長期に亘って安定的に「運用益が見込める」ことを知っている。サブプライムローン問題もリーマンショックも数年で乗り越え、すでに全米で適正に管理された良好な住宅地は、価格が上昇している。ゴールが「売却時に高く!」なのでロケーションを選び、手入れを怠らず、近隣で資産を毀損するような行為があれば、みんなが注意を促し魅力ある住宅地を維持するようなインセンティブが働くのだ。

 

自分が所有する住宅不動産の価値が上昇することは、個人はもちろんのこと近隣の住民も、固定資産税収入を得る自治体も、誰も損をすることのない『共通の利益』だ。利益を共有できるから、お互いが協力し資産価値を高める努力が継続できる。そのためには「今売ればどのくらいの値がつくのか?」という不動産価格の成績を誰もがリアルタイムで確認できる不動産情報の網羅と透明性が欠かせない。それがアプレイザルと呼ばれる不動産鑑定システムであり、MLSという不動産データベースの整備だ。

 

米国の都市計画や住宅設計に詳しい専門家によると、アメリカでは「その建物が建てられたら、周辺環境にどのような影響を及ぼすのか」の分析を徹底的に行い、不足するデータを要求してはじめて『建築許可』が出されると言う。一方、建築法令の範囲内であれば、景観や地価への影響は全く考えず安全性面だけ審査して『建築確認』を行う日本では、街並みや景観に差が出るのは必然だろう。共通の利益とゴールがどこにあるのかで、豊かさにも差が生じている。だから住宅では“時を経ても色褪せないデザイン”が周辺環境に好影響を及ぼし、建築様式が大切にされている。

米国シアトルのダウンタウンを見下ろす丘に広がる住宅地クイーン・アン。ロケーションと窓から見える景色を求め、築50年以上の建物も数億円で取引されていた。ライフステージ(社会的地位や収入、家族構成の変化など)によって、売却され新しいオーナーが入居するから、中古マーケットに良質な住宅が豊富だ。

日本では斜面の高低差を、ブロックやコンクリート擁壁がむき出しのまま肌をあらわにする。しかし住宅を「投資」と考える米国では、足元の処理も大切にしている。
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