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若本修治の住宅コラム

2017.2.20 第129話

住宅地の価値と窓からのビュー

私が住む広島市の郊外では、まだまだ新しい戸建て分譲地が販売され、1年間モデルハウスの展示イベントに出展できる住宅会社を「建築条件」とした土地分譲が行われている。広島市中区では21.5%の空き家率になっているという状態ながら、土地を手放したくない人たちがコインパーキングや空き家のまま放置しているため、東日本大震災の被災地と同様、未だに新規の住宅取得では多くの人たちが「高台移転」を強いられている状況だ。

 

そんな郊外の住宅地でも、山を切り崩してどのような地形でもつくれるから、例えばシアトル郊外の「イサクワハイランド」のようなTNDの思想を取り入れた住宅地開発は可能だっただろう。高台というデメリットを、景観というプラス要素で魅力を演出するということは十分可能なロケーションだった。写真中央部の左側に遠くに見える山は、厳島神社のある安芸の宮島。団地の最前列からは『宮島展望苑』という公園を介して宮島や瀬戸内海の風景が望め、新しく入居した団地の家族連れが、この公園から見下ろせる遠景を楽しんでいた。この最前列の土地を購入した家族は、さぞかし「特等席」で家を建てる喜びに大いに期待したことだろう。しかし建築途中に、段落ちした南側敷地に物流会社の工場が建ち始め、宮島が見える風景を完全に塞いでしまった。土地分譲したデベロッパーは同じ会社だ。

 

魅力が続く住宅地の価値とは

 

日本では、住宅の価値は『性能』と建てている会社名の『ブランド力』で測られ、耐震等級3やZEH(ゼロエネルギー住宅)などを売りにした家や、大手ハウスメーカーが供給する住宅は「高くてもその価値がある」と信じられている。そして自分たちと同世代の新しいファミリーが入居するニュータウンは、支払い能力も同じくらいで、子供たちが通う幼稚園や小中学校によってご近所の縁も広がるので、安心して暮らせる環境だと信じて引っ越してくる。後は通勤に便利かどうかが重要で、敷地内に自家用車が置けて、小さな庭でも確保出来れば、それだけで満足している。

 

とはいえ、土地分譲の説明を受けた時に見た景色は、購入動機に大きな影響を及ぼしているだろう。残念ながら日本では自然の景観は素晴らしくても、人の手が入った人工的な景観は、住宅地の街並みも含めてなぜか美しく感じるよりも、出来るだけ視野に入らないほうがいいという景色が増えてしまった。しかも全国どこに行っても同じような景色ばかりで、地域の特色や風土・文化を感じさせる景色はほとんど目にすることが無くなってしまっている。このような住宅地は、住民の高齢化が進めば住宅地としての魅力を失っていくのは必然だろう。入居の第一世代がリタイヤする頃には建物は老朽化し、資産価値は急落、中古で売却も出来ずに新たな住人は入ってこず、次第に空き家が増加していくというのは火を見るよりも明らかだ。

 

しかし裏を返せば、窓から見える景色をしっかりと計算し、年月を経ても変わらない景色が維持できるとしたら、住宅地の価値は変わってくるかもしれない。それは名所旧跡で誰もが目にしてきた「日本庭園」や「坪庭」「光庭」など、人工的に自然の風景を切り取った「庭」に面して家をつくることも解決策の一つだろう。ロンドン郊外のハムステッドガーデンサバーブのプライベートガーデンも、変わらぬ景観を入居者に与え続ける魅力的な空間だった。

 

東京湾の最深部、浦安に出来た東京ディズニーランドも、おとぎの国の園内から、アトラクション以外の現代的な人工構造物が見えないよう、ホテルも高さ制限をしたという。周辺の建物をコントロールできない分、街路樹などで景色を遮りながら、街区内でお互いの目に入る景観を整えたい。

カッコ書きで「宮島展望苑」と書かれた公園を視界を塞ぐように建築されている、産業団地の建物。

「宮島展望苑」と名付けられた『こころ第十三公園』。目の前に物流企業の建物が建築中だ。
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