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若本修治の住宅コラム

2019.5.20 第155話

平成30年間の住宅着工と直近5年間の「純増加数」の衝撃!

平成の30年間が終わり、新元号の令和の時代がスタートした。先頃、総務省から5年ぶりの『住宅・土地統計調査』の速報が発表され、新聞でも大きく報道されていた。2018年10月時点で、過去5年間に増加した「空き家」が26万戸。空き家率は13.6%に上昇し、空き家の総数も846万戸と史上最高を更新している。ほぼ7軒に1軒が空き家という状態だ。ただしこの数字は、賃貸市場で入居者募集中の一時的空室や、セカンドハウスとして休暇の時だけ利用する別荘など、管理されている物件も含まれる。

 

私が注目した数字は、この5年間で増加した住宅総数。人口が減少し、空き家も増加しているのに179万戸も増加していた。もちろんこの間、解体・撤去された建物も数多くあるから、この数字は「純増」の数字。桁が大きくて数字だけでは頭がマヒしてイメージ湧かないかも知れないが、皆が知る「大都市」と重ねてみると、驚くべき事実に唖然とさせられるだろう。その大都市とは、東京に次いで人口の多い372.5万人都市の横浜市だ。

 

横浜市の全世帯が新居に引っ越せる?

 

横浜市の住宅統計から、平成25年の住宅総数をみると、空き家も含めての数字で約176万戸。実際に居住している住宅数は158万戸となっている。つまり横浜の18区内にあるすべての住宅数以上の新築住宅が、人口減少が進む日本国内で5年間に増えたということだ。ちなみに横浜市のような大都市は単身者も多く、一世帯当たり2.3人だが、地方の平均的世帯人数3人弱で計算すると、住宅の純増数179万戸は530万人相当の人口に値する。横浜市372.5万人と川崎市147.5万人を足した520万人に匹敵する住宅数が増えている。横浜市と川崎市に住んでいる人たちが全ての住居を放棄して、住民大移動をしても住む家に困ることがない数字だ。東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨などの被災者で、仮設住宅にさえ入居できない人がいることを考えると、この国の異様さが際立つだろう。

 

少子高齢化と人口減少が加速化する日本で、これほどの住宅数が増えれば供給過剰に陥り、普通に考えれば将来値崩れするということに気づくだろう。どのような業界・商品でも、需要よりも供給が足りなければ値上がりし、需要が減っていく中、需給関係に関係なく「乱売」されるものは、必ず値下がりする。それはよほど人為的な操作がない限り、市場メカニズムとして下落するのが自然であり、作為的に高値維持したとしても、最終的には大きな反動で価格が崩落するのが歴史に学ぶ教訓だ。人々は後になって「あの高値はバブルだった」と気づくことを繰り返している。

 

平成の30年間の住宅業界を総括してみよう。1980年代から発生したバブル経済は、平成元年の年末に付けた日経平均株価のピークから平成2年の年明けには転げ落ち、不動産価格も急落していった。しかし投機や収益性とは無縁の「個人の住宅取得」は手堅い需要が続いたので、バブル崩壊で落ち込んだ1990年でも年間134万戸もの住宅が着工され、阪神淡路大震災の翌年1996年には163万戸もの住宅が一年間に供給された。さすがに現在は90万戸台まで落ちているものの、平成の30年間をざっくりと均すと、平均120万戸/年程度の住宅が建ち、それまでの昭和までに建てられた住宅に、さらに3,600万戸の住宅が増えている。核家族化が進んでいるとはいえ、日本の世帯数は約5,330万世帯(2015年/国立社会・人口問題研究所)で、すでに50年前に世帯数と住宅数は均衡・充足している。この間住宅の耐用年数は27年程度とされ、30年程度で建て替えが推奨されてきた。35年ローンが一般的な社会で、返済途中で資産価値がゼロになり、将来空き家として社会問題になる根っこは、この平成の30年間に形作られたと言っても過言ではない。

欧米では、住宅取得の中で既存の中古住宅の割合が日本のおよそ5倍あるという。住宅は耐久消費財ではなく、時代に合わせてリモデリングをすることで、築50年を超えても快適に住める資本財(資産)なので、新築も中古住宅も同じマーケットで競われる。利便性が高く、すでに人気が定着して人々が住みたくなるような成熟した街には、ほとんど新しい売買物件が出ないから、おのずと需給関係によって中古でも高くなり、新築はまだ開発し始めた利便性の低いエリアがほとんどだから、生活インフラも不十分で安く買える。都市計画で建物の用途や高さ、容積率などによって大規模な新たな住宅(日本の分譲マンション、海外ではコンドミニアム)が事実上抑制されるから、常に住居用不動産はマーケットメカニズムでも自然に上昇し、入居者はしっかりと手入れすることで、将来高く売れるという確信が得られるという好循環を生んでいるのが海外の住宅事情だ。

 

新しい住宅の大規模供給を抑制することで、すでに住宅取得した人々のストックが値上がりするよう都市計画でコントロールする海外の自治体では、固定資産税収入も上がり続け、住民も含み資産が増えて豊かになり、空き家は少なく、街並みは美しくなっていく。その逆に、新築の住宅供給によって、経済の底上げ、目先の景気回復を願い、フローで支出される住宅ローンが、最終的に不良債権になって個人も銀行も行き詰る懸念を払しょくできない日本の住宅マーケット。どちらが幸せな社会か、そろそろ気づく人たちが増えてきてもおかしくはない。

築10年未満の住宅と築80年を超える住宅が混在していても、違和感なく美しい街並みが保たれている米国ワシントン州シアトルの高級住宅地「クイーンアン」地区。街並みだけでなく、ここから見えるシアトルのダウンタウンと遠くに見えるマウントレーニアの景色がこの場所でしか得られない価値を高めている。

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