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若本修治の住宅コラム

2019.9.20 第159話

不動産仲介業の「囲い込み」と「両手仲介」を考える-その2

前回に引き続き、不動産取引で見られる『両手仲介』『囲い込み』についてもう少し詳しく、なぜこのようなことがまかり通っていて何が問題なのか見ていこう。

単純化すれば、土地を所有している売り主から「自分が持っている不動産を売却して欲しい」と依頼された不動産業者は、一度の取引で出来るだけ多くの仲介手数料を得たいと考える。商売をしている限り、いたって自然なことで、売り主からの仲介手数料だけでなく、自ら買い手を見つけてくれば、買い主からも仲介手数料が得られる。「双方代理」は法律で禁止されていても、「双方仲介」はあくまで”当事者同士の取引を仲介する”だけで、価格や条件は本人たちの意思が尊重されるから違法にはならず、多くの不動産業者がそのような機会を自ら放棄することはまずないだろう。

経験豊富な不動産業者が、適切な値付けをして、自社が保有している購入希望者リストから早めにマッチングできれば、売り主・買い主ともメリットがある。双方の顧客が負担する仲介手数料も法令の上限以内であれば、全く問題にされることはない。スムーズな取引が出来れば、お客さんからも喜ばれるだろう。

 

しかし私たちがよく目にする”商道徳上問題があるのではないか”と感じる『両手仲介』や『物件の囲い込み』は、売り主の期待に背く「背信行為」の上に、自ら買い手側の見込み客リストも保有せず、集客の努力もすることなく、他の不動産業者のお客を奪おうという行為が目に余るから、業界で問題とされている。とはいえ、購入者側にとっては、購入したい不動産物件は、仲介業者がどこであっても価値が変わることも、自分たちが負担する仲介手数料が安くなることもないため、お客さんには基本的にデメリットは生じない。(当社の場合は、独自の仲介手数料体系があるから、ほぼ他社よりも安い)

 

「口先だけ」の”高い値付け査定”で得られる『専任媒介契約』という美味しいポジション

 

売り主の期待に背く背任行為”とは何かについて、少し解説を加えたい。
通常、一般の方が所有する不動産の売却を考えた時、これまでのように地元で長年営業をしている家族経営の零細不動産業者を信頼して、1社特命で依頼することは減り、財閥系や鉄道系を含む大手不動産業者にも「どのくらいの価格で売れるだろうか?」と価格査定を依頼するケースが増えている。地元不動産業者は、あまりにも自分の家族関係や資産状況なども知っているので、土地を処分せざるを得ないという状況を近隣に知られたくなく、むしろ全く地縁・血縁のない大手に頼んだほうが気持ちも楽で、数多くの取引事例や豊富な情報から「適切な査定をしてくれるだろう」という期待も多いのが実態だ。

 

多くの不動産所有者が、長年の不動産価格の下落で、今よりも高かった頃の近隣の取引価格などを知っている。だから手放すにしても出来るだけ高く売りたいと考えるのがごく自然の感情だろう。とはいえ、あまり大々的に自らの資産を売却しようとしているということを、多くの不動産業者に知らせて、見ず知らずのお客さんを紹介してもらうのは、気が引けるのも普通だろうし面倒でもある。その感情は不動産業者側も心得ており、多くの会社が『専任媒介契約』という、1社だけが仲介業者として”特命依頼”される立場を得たいと願うのもビジネスで考えれば自然だ。

 

専任媒介契約を締結できれば、もはや物件価格の3%+6万円の仲介手数料は得られたも同然。2千万円の不動産で66万円(税別)の売上になり、それまで掛った直接経費はわずかだから「専任業者に選ばれる」というポジションは、不動産業者にとって”オイシイ”立ち位置になる。その分、売却希望者であるクライアントの期待に応えるため、レインズという不動産情報ネットワークに5日以内に物件登録をし、広く同業者に「買い手を探してもらう」告知を行うことが義務付けられる。また依頼者にも毎週商談状況を報告する義務も負い、その対価として得られるのが仲介手数料となる。

つまり「適切な価格査定」をして、多くの同業者が「売り物件が出た」と物件情報サイトで分かれば、それほど時間を置かずに”購入希望者”が現れ、早ければ数週間、遅くとも2か月くらいの間では、土地の売買契約に至る(代金全額支払いとなる決済はもう少し先としても)可能性が高いから、決して営業効率は悪くない。ネットがなかった以前のように、チラシを作り、住宅情報誌に広告を打って、地道に電話や訪問で購入希望者を探すことをしなくても、立地条件や土地形状等を勘案して、周辺相場と比べて”値ごろ感”があれば、さほど売ることに苦労することなく当初の仲介手数料を得ることが可能だ。

分譲地看板

既存の住宅を業者が買取り、2つに分筆して大手鉄道系の不動産会社が看板を出している土地。建築条件なしとなっていて、一般の不動産業者も自社の顧客に紹介・仲介手数料を得られそうだが、両手仲介しか受け付けない取引だった。

 

まだ人口が増加し、不動産取引も活気があった時代は、片手仲介でも物件数をこなすことで、大手でも固定費をカバーできていた。しかし住宅の着工も減少し、利便性が高く需要もある地域にはすでに売買可能な空き地や空き家はわずかで、売る意思のない古家・空きビルやコインパーキングになった空き地ばかりなので、取引件数自体は減らざるを得ない。だから1件あたりの取引額を上げていくしか店舗や人の雇用を維持できず、1件あたりの不動産価格を上げるか、両手仲介のような”手数料の倍額”化を狙うのが会社の方針となっていく。大手ほどその傾向は高いといっていい。

 

その時、従来であれば「早く購入希望者が現れるように」と、周辺の取引事例比較や収益還元法など、適切な価格査定が行われ、大手でも地場でも査定価格に大きな差は生じなかった。しかし今では悪意を持って「割高な査定価格を提示」する大手企業が登場し、専任媒介契約を奪っていくという事態が同時多発的に発生していった。その価格では買い手が現れないことを承知しながら「当社の知名度・営業力・情報ネットワークであれば、地元業者よりも高く買えるお客さんを見つけることは可能です!」と大手で教育された営業マンが売り込み、易々と”専任媒介契約”を結ぶことに成功する。お客さん自身は、不動産売却はほぼ初めてのことでもあり、この段階では疑う理由もなく、確かに地場よりも安心だろうと任せてしまうのだ。

また長くなったので、契約以降の「背信行為」は次回詳しく説明する。

郊外の分譲地の看板。こちらは「建築条件付」でハウスメーカーが土地を買い占めている
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