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若本修治の住宅コラム

2019.8.20 第158話

不動産仲介業の「囲い込み」と「両手仲介」を考える

日本の不動産取引の慣習として、売り手・買い手の双方の仲介をする『両手仲介』という立ち位置で取引を行うケースが少なくない。しかし「双方の代理をすれば利益相反になり、商道徳に反する」という批判が常に付きまとう。今回のコラムでは、この「両手仲介」が本当に依頼人の意向に反して、顧客の利益喪失や機会損失につながり、利益相反になるのか考えてみたい。米国のような「訴訟の国」で、専門家を雇ってでもタフな交渉から個人を守ろうとする国と、元々「和を重んじる国」で、お互いを信頼し利益を分け合うことを美徳とする社会では、おのずと“仲介者の役割”も変わってくるだろう。前者(米国)は『性悪説』に立ち、後者(日本)は『性善説』に立って、取引に利害のない第三者を入れている。

 

当社は、建築のコンサルティングからスタートし、一般消費者の施工業者探しのエージェントとして『仲人役』を果たしてきた。だから、双方の間に入ってお互いの要望や事情などを整理し、調整役を果たすことが、施主にとっても施工者にとっても不安や不満の解消につながり、エージェントがお互いの信頼関係醸成に果たす役割の大切さを実感している。

結婚相手を探すお見合いの「仲人(なこうど)」をイメージしてみると良く分かるが、どちらか一方の立場のみ立って、優位に交渉を進めようとする代理人(エージェント)を双方がお金を払って雇ったらどうだろう。それが「片方代理」の状況だ。自分のクライアントの優位性と、相手の欠点を比較して値踏みをするような行為で”妥協点”を見出しても、決してお互いの信頼や、その後の幸せな関係が築けるとは思えない。両者の間で仲立ちし、良いところを見つけるように場を和ませたほうが、よほど話はスムーズに進む。不動産取引でも同じだろう。

 

一般消費者だけでなく不動産業界でも、多くの人たちが勘違いしているのは、売り手と買い手の双方の間に入って仲を取り持つ「仲介者」(=ソフトな調整役)と、弁護士のように依頼主の利益のために雇われ、犯罪が疑われる相手であっても、無罪や減刑を勝ち取ることを使命とする「代理人」(=タフな交渉役)とは役割が違うということだ。後者は、交渉が決裂するギリギリまで交渉の手を休めることなく、依頼者の要求を押し通して、少しでも交渉を優位にさせようという能力が評価される。米国のような多民族国家で、生まれ育った文化も慣習も、使っている言葉も違う社会であれば、自分の主張や要求を通すために交渉役の専門家を雇うのは合理性もある。しかしむしろ日本では”お互いが少し譲歩しながら”、気持ちよく取引して「ありがとう!」といえる関係のほうが好まれるのではないだろうか?

 

「両手仲介」を狙うから発生する『物件の囲い込み』という現象

 

一方で、日本の「両手仲介」で問題になるのは『物件の囲い込み』と呼ばれる不誠実な商習慣だ。このような行為は、当社でも何度も経験しており、売り主側の仲介業者として『専属媒介契約』を結んだ業者による「背任行為」に他ならない。この話題は少し複雑なので、具体例として解説を加えてみたい。

 

当社のお客様でも何度かあった事例。不動産ポータルサイトで「売り土地」として表示されている大手不動産会社が扱っている物件で、当社がお客様に紹介しようと”業者として”問合せすると「現在商談中なので紹介できません」という回答がほとんどだ。その後にエンドユーザーであるお客様自身に同じ物件を問合せ頂くと、まだ物件はあるといい、名前や連絡先など根掘り葉掘り聞いたうえで、「問合せはいくつか頂いているので、すぐに申込みしないといつ買付が入るか分かりません。」と商談を焦らせるのが常套手段だ。なぜこんなことをするかといえば、業者からの問合せであれば購入者が負担する仲介手数料は、その土地の情報を提供し価格の交渉も行ってくれる「買い手側の仲介業者(=他社)」に払われるのが当然だが、同じ問合せでも一般客から直接問合せがあれば、そのお客さんの仲介手数料は自社が得ることが出来るからだ。本来は、売り主からは「この金額で買ってくれる相手があれば、仲介業者を通じてでもいいから早く購入希望者を探して欲しい」と依頼されている売り主側の仲介業者が、勝手に手数料が得られる相手かそうでない業者かを選別して、売り主と買い主双方から仲介手数料を得ようとする。

 

しかしこれだけであれば、仲介に入れず手数料を得られなかった買い手側の仲介業者が「ずるい!」と憤るだけで、売り手も買い手ともに負担する仲介手数料は変わらず、お客さんに大きな不利益は生じないかも知れない。買い手側にとっても、自分が欲しい不動産物件自体の価格や状態が変わる訳ではなく、誰から買っても一緒なので、「ここまでお世話になっておきながら、お宅に仲介手数料がいかずに申し訳ありません」というくらいで、何が問題なのか一般には分からないケースが多いだろう。仲介手数料を得られなかった買い主側の仲介業者(「客付け業者」といわれる)がタダ働きとなって、倍の仲介手数料を得た相手側の仲介業者のやり口に恨みつらみの感情が芽生えて、悪くいっているだけだというのが傍から見た印象なので、往生際が悪い業者だというレッテルさえ張られかねないのが現状だ。しかし、このような事例の実態はもっと複雑で、”あくどい商売”がまかり通っている。それが『物件の囲い込み』だ。もう少し詳しく、このようなことがまかり通っている実態を書きたいところだが、長くなるので次回のコラムに続く。

中古住宅の売却物件。通常、売り手側の不動産業者が出来るだけスピーディーに売れるように、数多くの同業者の目に触れるよう業者専用サイトに情報を公開する。
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