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若本修治の住宅コラム

2020.5.20 第167話

【連載】未来の賢い家づくりとは ~第7回~

今の日本人は、自分たちが購入した住宅は『耐久消費財』で、経年で価値が落ちていくのは当然だと思っています。実は最初からそうだったわけではなく、土地神話と同様、戦後の経済成長の中で人々がいつのまにかそう信じてしまったのです。一方で世界の先進国では、住宅は『固定資産』であり、土地と建物と近隣の住環境は“切り離すことが出来ない”から、一体の不動産として評価され、誰も家を「耐久消費財」と考える人たちはいません。適切なメンテナンスを行って、魅力的な住環境・立地条件が続く限り、物価上昇以上のお金を出さなければ、そこに住むことが出来ないのです。だから庭や建物の手入れをし、近隣との人間関係を良好にして、建物を含む不動産価値を高めるのが先進国共通の考え方です。

 

下の図表は経営者には見慣れた『貸借対照表』。
会社の経営状況を判断する財務諸表の中で、1年間の売上や利益、経費などを把握する『損益計算書』だけでは分からない、会社の決算日時点での“自社の総資産“を把握するこの『貸借対照表』は、どのような借金によってどのような資産を形成しているのか、会社の財産自体を把握する重要なデータです。左側の”資産の部“と右側の”負債の部“の差額が会社では”自己資本(資本金と剰余金)“となり、左右が必ず同じ金額になることから『バランスシート』と呼ばれます。負債のほうが大きく、純資産がマイナスになれば”債務超過“ということになります。

個人のBS

個人の家計のバランスシート(BS)
住宅を取得したほとんどの日本人は、資産全体に占める不動産(土地・住宅)の割合が大きく、しかもそれが借金(住宅ローン)で賄われている。ローンの残債よりも不動産価値が高ければ「資産家」だが、多くの人が不動産価格の低下により「隠れ不良債権」を抱えている。

 

■バブル崩壊とともに生まれた 「バランスシート不況」

 

日本ではこれを個人に当てはめてみることはほとんどありませんが、バブル崩壊後の景気低迷、「失われた20年」といわれる現象に大きな影響を与えています。多くの日本企業はバブル経済の頃、借金によるオフィスやお店の新設、工場用地取得など拡大路線に走り、さらに不動産投資やゴルフ会員権の取得、株式投資なども行って、本社の建替えなどで資産を膨らませました。つまり当時、右側の“固定負債”(=長期の借入)を増やして得た土地や建物などの不動産や株式などが、購入時よりも高くなり、左側の“固定資産”が膨張したのです。しかしその状況は長くは続かず、平成2年頃にバブルが崩壊、「固定負債」は簡単には減らないのに、「固定資産」は急落しました。その後、山一證券や北海道拓殖銀行などの破たんや不良債権処理で日本経済が停滞したのはご存知の通りです。当時これを野村総研の主任研究員で経済アナリストのリチャード・クー氏は『バランスシート不況』と命名しました。

 

■令和がスタート、日本人に求められる 「住宅意識の大転換」

 

一方、個人のほうでは平成の30年間、住宅着工は平均すると毎年100万戸を超え、3千万戸以上の住宅が供給されました。賃貸や社宅、分譲マンションを含むものの、その全ては「流動資産」を取り崩すか「固定負債」を増やして建物が建てられたのです。この30年間の景気低迷の中、コツコツと働き、住宅購入の頭金をつくって、ある程度経済的余裕が出てきた中間層が、実際に住宅取得に踏み切りました。しかしバブル経済が崩壊して以降、ほぼ一貫して、自宅を購入した人たちの不動産資産は減り続け、逆に取得時の建築費は一貫して上昇し続けています。

 

今の日本でどれほど株価が上昇し、経済成長していると聞かされても、景気の良さの実感がないのはこれが一つの大きな要因です。老後に2,000万円不足するという話題がありましたが、平成年間に多くの日本人が住宅取得により2千万円以上の資産下落に陥り、老後の安心感が失われています。広過ぎる自宅を売却して高齢者施設に移住するほどの価値も、老後資金をリバースモーゲージで調達しようにも、米国のように大きなお釣りが戻ることはないのです。日本人が、住宅を「減価償却する耐久消費財」と考えている限りこの悪循環は続き、「賃貸住宅の家賃と変わらないのだったら住宅を取得したほうが得」という、バランスシートを全く意識しない多額な借金を抱えてしまうのです。

 

欧米先進国での住宅取得は、短期的な増減はあっても5年以上の長期保有をしておけば、不動産は上がって当然という“常識”で物件の価格やロケーションを比較します。だから入居後10年前後で、家族構成や家族の関係に変化があれば、自宅を売却して自分たちの生活スタイルに合った「次の家」に住み替えていくことが可能です。日本のように家づくりのスタートで、高齢者になった未来を考え、バリアフリー化や車に乗れなくなった時を考えるとか、将来エレベーターを付けるスペースを確保するといった心配も無用で、良質な中古住宅も数多く市場に出るのです。

米国フロリダ州のシーサイドの街並み。フロリダ湾を望む美しい白砂の海岸線で有名な住宅地。リーマンショックを挟んでも、不動産価格は上昇している。

 

さらに土地には掛からない消費税を建物では10%も払うようになりました。今後も消費増税の駆け込み需要と、増税後の反動減が、また日本の経済を荒波に晒すのです。平成が終わり令和がスタートした今、そして人口が減少し空き家が急増する時代に、住宅の供給や購入者の意識・知識も“大転換が必要”です。それが創刊号からの連載のテーマです。

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

広島郊外の人気の住宅地で開催された「住宅展」。各モデルハウスが個性を競うほど、街並みはバラバラになり、緑のない「電柱・電線」の道路空間は、街の魅力を失わせる。
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