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若本修治の住宅コラム

2020.10.20 第170話

【連載】未来の賢い家づくりとは ~第10回(最終回)~

「未来の賢い家づくり」と銘打ってスタートしたこの連載記事。主要なテーマは“もはや土地は買う時代ではない”ことと“人の人生は経済的にも精神的にも住環境に大きく影響される”、そして“老後の豊かさは住宅資産によって形成される社会づくりが欠かせない”という3つです。

しかしこれから家づくりをする一般市民にとって、現実的には土地や建物を扱っているプロ側(不動産会社や工務店・建設会社)で、そのような考え方を持って事業に取り組んでいるところは、日本中探しても皆無と言ってもいいでしょう。だから、最近は私がそのような会社や人材を育成しなければならないかと考えています。私が創業する前の仕事は、住宅会社の社員研修や経営コンサルを行う会社の次長で、日本全国数多くの工務店経営者、不動産会社の社員にも会ってきました。現在の会社を創業して20年目に入り、10月21日に60歳を迎える年齢と経験から、この方々の意識を変え、地域のお客さんたちに支持される事業をつくっていくのも私の役割だと感じるようになったのです。

 

■日本の住宅産業史”概観”

 

戦後75年が経ちました。戦争により都市部の住宅の多くは消失し、原爆が投下された広島や長崎以外の都市も廃墟となり、戦後住宅不足が大きな社会問題になりました。本来、住宅建設は地域で調達できる材料で、地元の大工さんや職人たちが造るものでした。しかし、山の木は燃料として伐採され、構造材として利用できるような杉や檜などの針葉樹林は、旺盛な需要に応えるほど調達できない状態でした。だから戦後植林が急増し、半世紀経って構造材として使える頃には、構造材は海外輸入に依存するようになって、間伐もされない山は荒廃し、花粉症の副作用も生じているのが現在の状態です。一方で、その後勃発した朝鮮戦争により国内の旧軍需産業も復活、全国各地で工場やコンビナートなどがつくられるようになりました。

産業復興の合言葉は「鉄は国家なり!」として、富士製鐵、八幡製鉄(のちの新日鉄)など、製鉄会社が雇用と経済成長を引っ張り、トヨタ自動車などの自動車産業だけでなく、鉄の需要を増やすために、政府から系列銀行、財閥を通じて「住宅を”鉄”で建てられないか?」という要請が広がっていったようです。それに応えて登場したのが、離れの勉強部屋のニーズに応えた『ミゼットハウス』を開発した大和ハウス工業に代表される「鉄骨プレハブ住宅」のハウスメーカー群です。昭和四十年代に積水ハウスやパナホーム、トヨタホームなど、化学・家電・自動車など建設業以外の業界から、戸建住宅分野に“鉄を使う“という、世界では特殊な「ハウスメーカー」という新しい産業が生まれたのです。

外側からは立派に見えても、今建築されている注文住宅でも工事現場の仮設のプレハブと同じ構造躯体。断熱材を挿入しても鉄骨の柱や梁・桁など熱伝導は抑えられないのが大きな欠点で、気密測定やサーモグラフィーを当てただけですぐに性能の低さが分かるレベル。

 

この頃の住宅供給の大手は、キャッシュで住宅を買えない人たちに割賦販売で分割支払できるようなビジネスモデルを生み出した住宅建設会社。当時の御三家といえば「日本電建」「太平住宅」「殖産住宅」の3社、それに建材メーカーの「永大産業」などが、旺盛な住宅需要を背景に急成長していました。オイルショックによって「戦後最大の倒産」と言われた永大産業の破綻は、社会に衝撃が走り、その後住宅総合展示場に出展して、見込み客を集めるというビジネスモデルに転換できた鉄骨プレハブメーカーが、住宅産業の主要プレイヤーに躍り出て、旧御三家を凌駕していったのです。2000年代に旧御三家は次々破綻し、大工などの職人不足も相まって、工場生産や木造住宅のプレカット化が一般化されました。その結果、多くの人たちが注文住宅は大工さんたち、工務店や建設会社が建てるということを忘れ、ハウスメーカーが建てる住宅展示場で選ぶというのが当たり前の社会になってしまいました。日本以外の先進国ではあり得ない住宅産業、住宅取得になってしまったのです。

 

■プレハブ製造業から住宅販売業へ

 

昭和四十年代のプレハブ住宅普及期は、自動車メーカーと同様、製造するメーカーと販売を担うディーラーは資本が分かれ、地元資本が出資した販社が住宅の販売を行うのが一般的な姿でした。木質パネル工法のミサワホームも含め、商品開発や工場生産はメーカーが手掛け、販売は地域販社が行うという棲み分けがあったのです。しかし、家電や自動車のような規格品・既製品を大量販売する業界と異なり、住宅は敷地条件や購入者(発注者)の要望に応えてカスタマイズすることが必要で、その商談プロセスは時間が掛かるため競合他社と比較されるケースが増加します。つまり、契約できれば金額が大きいものの、契約できない機会損失、経費ロスも増えるのです。

その上、定価(メーカー希望価格)があって価格やスペックの比較が容易な「既製品」と異なり、適正価格が分からず相手を信用するしかない状態に置かれる注文住宅建築は、選ばれるための「差別化」にお金が投じられ、イメージ戦略が採用されたのです。つまり儲けを最大化させたい企業戦略によっても“信用力を高めるために広告宣伝やモデルハウスに最大の投資をすること”が最優先され、資本力の差が”競争優位につながる”という業界になってしまいました。

建物の品質や価格の適正化よりも、住宅展示場の豪華さを競い、大量の広告宣伝をバラまき、そこで問合せのあった“見込み度の薄い”人たちまで、投資コスト回収のために”自宅に訪問して”でも営業攻勢を掛けるという仕組みが、他社との受注競争に勝ち、シェア確保に欠かせないというビジネスモデルになっていったのです。企業努力でコストダウンや営業効率を図るより、訪問販売と同じような売り方、商談ロスが多くそのコストを工事費に転嫁する営業手法が、残念ながら住宅販売の主流になったのです。「ハウスメーカー」という高固定費負担のビジネスモデルの登場です。

総合展示場では、スケールも価格も購入者の用意できる敷地や予算からかけ離れてしまうため、最近では実際に販売されている分譲地で、1年後に売却を前庭にモデルハウスを建ててイベントをするケースが増えている。連休中なのに、誰もいない住宅展

 

地元資本の入った地域の販社にとってはそこまでの固定費負担は厳しく、地域の人達の支持を集めるためには「売れる住宅を、購入可能な価格で供給して欲しい!」とメーカーに訴え続けました。しかし住宅は車のように”車検などのキッカケで”リピート購入・買い替えされる商品ではなく、1組あたりの集客コストの負担は過大となっていきます。時にはメーカーとディーラーの対峙も生じ、いち早くディーラーとの合弁や契約を解消、直営に変えていった積水ハウスなど、製販一体型メーカーが勝ち組になっていくに連れ、ディーラー制は崩壊、自前で展示場や営業マンを抱える企業体が「ハウスメーカー」と呼ばれるようになりました。その後販売経費はさらに膨らみ、建築コストに転嫁されても購入者は気づかないということが常態化していったのです。

本来、住宅販売も含め不動産の販売は「物件価格の3%プラス6万円」でも、収益が出るビジネスとして、宅建業に報酬の上限が決められているくらいの商売。住宅販売が、お客さんを見つけ商談して契約に結びつける専門サービスと考えると、建物の価格に販売コストを転嫁させることは法令違反と変わりません。さらに通常の商売のように「リピート客」や「顧客の紹介」を大切にする”顧客満足度の追求”よりも、一度きりの縁と割り切って、契約さえ取れればいいという「売り切り型」の住宅販売が、住宅ローンの返済期間よりも短い建物寿命と、使い捨てのように”一代で空き家になってしまう”ような住宅・住環境を平気で売る業界になってしまったといっても過言ではありません。

 

■新築偏重の住宅産業の変革

 

このハウスメーカー方式の「住宅展示場集客モデル」と「建築原価に販売経費を上乗せ・転嫁する」というビジネスモデルを、プレハブメーカー以外の小さな住宅会社、工務店まで真似をし始めた結果が、今の日本の住宅業界の現状です。つまり、建築士や施工管理技士などの技術系の有資格者が商談対応し、無料でプランや見積を作成していたら、本来お金を負担してもらったすでに契約済みのお客様への対応が疎かになるから、専門知識のない新人営業マンでも促成栽培で商談できる仕組みとツールを提供し、大量の広告宣伝やモデルハウスへのイベント集客で見込み客を集め、まったく建物品質の向上や、無駄なコスト圧縮に無関係なことに、施主の貴重な建築費を費やすということがこの半世紀、続いてきたのが日本の住宅建築の実態です。

結果的に平成の30年間で建てられた住宅は、新築時の割高な建築費と、経年変化で減価償却される建物査定によって、一部の例外を除いて住宅取得者の99%が、住宅資産と住宅ローン残債が数年で逆転する「債務超過」状態に陥りながら、そのことに気づかず、老後の不安を抱えるようになってしまったのです。欧米のように、適切な立地に適正価格で建った住宅は、リーマンショック級の経済疲弊を経ても、10年超の長期保有で含み資産として市場性を持ち、家族構成やライフステージ、ライフスタイル変化で中古住宅として売却、新たな環境に移り住むという好循環が働く社会に、とうとう日本はなり得なかったのが「失われた20年」と呼ばれた平成年間でした。

現在の「中古住宅の流通量が欧米に比べて少ない」とか「空き家が社会問題になっている」という問題の根底は、まだ衰えることを知らない新築の供給量だけでなく、住宅の資産価値が減価償却として減っていく状態が、戦後のハウスメーカーの隆盛に端を発していることに、そろそろ気づく時期が来ました。巷で言われる「中古流通市場の不整備」や「インスペクション(建物詳細調査)によって価値が見直される」といった”システム的な不備”ではないのです。新築販売(営業)の時点から住宅供給システムの瑕疵が続いているのです。

【フロリダ州オーランド郊外のボールドウィンパーク】この場所は、米軍の兵站基地があった平坦な場所を開発した住宅地。ゴルフ場をつくるように地形を変化させ、池や樹木を配置して景観をつくり、10年経っても目の前の景色が維持できるような特等席をつくるのが特長。魅力的な住環境は、中古になっても市場性が続き、空き家になることなく高く売買されていく。

 

ちなみに欧米で“注文住宅を建てられる人”は、ファッションのオートクチュールと同様、年収3千万円程度以上の富裕層の人たちだけ。彼らは住宅ローン不要でキャッシュで建築費の支払いが可能だから、周辺の町並みや景観に影響を与えなくていい立地に、建築家に依頼して個性豊かな住宅を建てても地域の環境・街並みにマイナスになることはありません。米国では、有名な建築家(例えばプレイリー様式のフランク・ロイド・ライト/日本の帝国ホテル等の設計者)が設計した住宅でも、将来の市場性が不確かな”特殊なデザイン”であれば、建築費のせいぜい30%程度しか融資しないから、富裕層しか建築家に依頼できないのです。

欧米では基本的に、住宅ローンが必要な中産階級の人たちは、既製服と同様、プロのデザイナーがあつらえた、将来高く売れる立地条件や環境を備えた建売住宅の中から、テイストに合った住宅を選ぶことが一般的しっかりと手入れして住環境が熟成してきたら、高く売却するという好循環で、経済的にも心理的にも豊かさを手にしているのです。同じエリアであれば、新築も中古住宅も築年数だけでの価格差はないのです。日本のようにお金も予算もないのに、建築家に設計を依頼する人、将来市場性の乏しい「自由設計」を要望する人もいないのです。

2020年は新型コロナの影響で、訪問営業は厳しく規制され、高固定費企業ほど経営危機に陥っていくという”ハウスメーカー冬の時代”にもなりました。リモートワーク増加や人口減少も相まって土地の需要も減退し、アパートも建たず土地の値段は下がっていくのは確実です。だからこそ、今後は土地価格の大幅下落が避けられない日本で、土地の売買で業者も購入者も儲けや損が出るようなことは避け、建物や周辺の住環境によって市場価値が生まれるリースホールド(定期借地権)による計画的な分譲住宅が、令和の時代の新しい住宅供給として求められる姿だと考えているのです。それは町並みのデザインの調和も、建築コストのコントロールも本当のプロに任せることで、今の日本の住宅供給とは比べ物にならないほど改善されることになるでしょう。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

全米ホームビルダーズショーの屋外イベントに参加した時に、会場付近に暮らす普通の人達の住宅を撮ったもの。日本のような数年で取り壊されるモデルハウスではなく、恒久的に利用され市場価値を持ち続けるのが住宅不動産だから、デザインや手入れは大事な要素となる。

全米ホームビルダーズショーの屋外イベントに参加した時に、会場付近に暮らす普通の人達の住宅を撮ったもの。日本のような壊されるモデルハウスではなく、恒久的に利用される住宅だから、デザインや手入れは大事な要素となる。
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