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若本修治の住宅コラム

2020.11.20 第171話

里山資本主義とサーキュラー・エコノミー

■里山資本主義の未来

NHK広島放送局が、広島県の中山間地域の活動を紹介した番組が大きな反響を得て、番組のナビゲーター役で「デフレの正体」などの著書がある藻谷浩介さんとNHK広島取材班の共著『里山資本主義 ~日本経済は「安心の原理」で動く~』が7年前の2013年に出版された。その後“里山資本主義という言葉”が徐々に市民権を得て、地方創生の文脈でも登場するようになってきた。特に、ここ数年は移住ブームが少しずつ浸透し、田舎暮らしに憧れる人たちの増加に加え、今年の新型コロナの感染拡大による出勤制限やリモート業務が、地方移住への抵抗感を引き下げた。特に首都圏などの有名なお店で働いて修行をしていた料理人やパティシエなど、独立志向が高く、地方のほうが出店コストや競争相手などの経営リスクが低くて食材の調達でも強みを出せるスペシャリストたちは、故郷に近い都市圏へ移住、開業準備をするケースも増えている。将来的な感染症のリスクや巨大地震など、大都市圏の“密の状態を避けること”以外にも、親の介護や子育て環境なども考慮して、地方を選ぶ人が増えているのだろう。

古民家を移築し、オシャレなお店としてオープンした平田観光農園にあるカレーとおやつの店「Cafe noqoo

 

実際に私の故郷、山口県の周防大島も移住者が増え、里山資本主義の優等生のように語られて、出版物やWebでも紹介される機会が増えている。首都圏から夫婦で移住し、古民家を改装して飲食店や民泊を開業したとか、耕作放棄地で新しい作物をつくり、6次産業化の補助金を得て加工食品を大都市圏向けに販売をスタートしたといった話題だ。日本政策投資銀行勤務のアラサー(三十歳前後)のエリート行員が、縁もゆかりもない周防大島の沖家室という人口約340人の離島に夫婦で移住した日経新聞の記事にも驚かされた。「家に住むだけに、こんなに一生懸命働いているんだっけ?」という東京の暮らしに疑問が生じたのが移住のキッカケだった。実際に家賃3万円の空き家を借り、前職の経験やネットワークを活かして10の仕事(本業か副業か分けられない複数の収益源)をこなし、東京時代の年収が4分の1になっても、豊かさを享受し、徐々に収入も増加しているという。しかしこのような里山や里海での生活を「資本主義」と名付けることに違和感を覚えるのは私だけではないだろう。あくまで個人の生き方であり、たとえ本人の満足度が高くても、地域に一定の雇用が生まれるわけでも、地域の持続可能性が高まる訳でもない。単なる高齢化が進む過疎地で、少し平均年齢が下がり、わずかながら子どもたちも増えて活気が出たとしても、衰退を若干遅らせる効果以上の産業育成や、就職先、税収増など地域の持続可能性を高めるほどの効果は見込めない。それは、実兄や従兄弟など親族・親戚が住んでいる故郷に帰省し、外から変化(地域の衰退)を見ていると現実がよく分かる。

 

■サーキュラー・エコノミーとは

一方、最近耳にするようになった言葉として『サーキュラー・エコノミー』がある。数年前に『シェアリングエコノミー』という言葉が流行り、ほとんど使われていない遊休資産や個人の空き時間を、Webサービスやスマホ・アプリでマッチングすることで、副業的な収入を得るような新しい経済活動が生まれた。米国発のライドシェア『Uber』や民泊の『エアビーアンドビー』といった新興サービスが代表的企業として急成長している。これらのサービスは、人口が集中する都市部だけでなく、空き家や利用されていない施設、統廃合された小中学校の廃校舎などの多い過疎地でも利用する機会はあるものの、新たな雇用を生むほどの経済効果、衰退を食い止めるだけのパワーはない。その点では、新しい概念の『サーキュラー・エコノミー』に私は地方再生の可能性を大いに感じている。平たく言えば「地域内でお金が循環する」ということであり、昔の人達が言った「金は天下の回りもの」を現代風に言い換えた言葉だと言っていい。車社会が到来する前の「地域」は、自分が使ったお金はそれほど遠くに行かず、狭いエリアで循環し雇用を生んでいた。地元商店街はまさにそのような場所だった。しかし経済のグローバル化が進むほど、金融資本主義が台頭し、お金は“より利回りの高いところ”に向かって世界中に拡散、大都市や富裕層に集まり、人口が減少・高齢化が進む停滞地域、衰退する過疎地には回ってこなくなってしまった。それは里山資本主義のような”ノスタルジー”や“情緒“で豊かになるほど、現実は甘くはない。

廃校になった小学校の木造校舎に学びの場を設けた三次市の文化施設

 

サーキュラー・エコノミーの本質は、新しい需要を創出するということ以前に、今現在地域に住んでいる住民が支出しているお金が、実際にどこに雇用を生んでいるのかイメージすることからがスタートだ。一番分かりやすいのが、毎月固定的に支払っている支出で、家計簿の科目でも把握できる。里山資本主義的に言えば「地産地消」として、食料品の中で地元で採れた野菜やお米、卵など農家から直接買ったり、地元JAの産直市や物々交換、イノシシや鹿などのジビエ料理などがイメージされがちだ。しかしそれらの支出は実際にはそれほど大きくなく、普段意識されていないガソリン代などのエネルギーの購入費は、化石燃料を買うための代金として地域の外に流出し、ローンが残っている住宅購入費用は、過去に意思決定した支出が数十年間に亘り地域外に支払われ続けているケースが少なくない。仮に人口が6千人程度の小さな町でも、年間十数億円の富が継続的に流出しているのが現実だろう。通信費や生保・損保の保険料などは、地元で供給する業者はいないので、切り替えることは出来ないが、ガソリンや電気は、実は地元に切り替えることが可能だ。ドイツの小さな村や町のように地域の協同組合や共同出資で再生可能エネルギーに投資し、電気自動車や暖房給湯エネルギーに利用することで、そのお金を地域内に固定化、循環させることに成功している事例に見習いたい。彼らは自家消費だけでなく、電力小売の自由化によって地元で作った電気を販売し、金利のつかない銀行預金よりも、再生可能エネルギーの投資の配当金が、労働を伴わない収入として高齢者の生活に余裕をもたらせている。自然が豊かな過疎地のほうが、化石燃料を使わない未来を先取りさえ出来るのだ。

 

■最大の支出は住宅関連消費

厳しい環境規制を課し、サーキュラー・エコノミーを重視している欧州の国々では、移動手段だけでなく生活で使うエネルギー、建物から漏れ出すエネルギーも抑制し、出来るだけ地域経済へ好影響を及ぼす形を希求している。例えば、断熱リフォームに自治体が補助金をつけることで、地元の大工さんや工務店、サッシ屋さんなどに仕事が生まれ、夏の熱中症や冬の脳梗塞・心筋梗塞など、寒暖差から生じる高齢者の健康リスクを回避して、冷暖房エネルギーの支出を下げることにも繋がっている。医療費負担や健康にも大きく影響するから、地元の業者さんだけでなく個人にとっても自治体にとっても三方良しのお金の循環が、断熱リフォームや省エネ家電への買い替え支出だ。最後に当社のことを書くと、この『住宅CMサービス広島』は、地域の人の家造りを地元の工務店・建設会社に頼むというマッチングをすることで、実は“年間数億円”の経済効果を地域にもたらせている。これまでの累計で考えると、恐らく50億円程度の経済効果を広島都市圏で生んできた。人生最大の支出が住宅取得だからその効果は食品と比べ物にならないほど大きい。

また食品の地産地消は、必ずしも地元の調達が安くはならず、選択の自由度も狭まる中で「高くても地域貢献しよう」という地元愛が欠かせない。しかし持ち家となる戸建住宅は、全国大手に比べて確実に“数百万円”は価格が下がり、設計や仕様・設備の自由度は高まって、断熱性能を高めてもそれほどコストアップに繋がらず、地域で雇用と技術を生んで、お金が地域を循環する、まさに「サーキュラー・エコノミーの王道」が住宅建設そのものだ。住宅産業は、新たな企業誘致も不要で、どのような地域でも需要刺激策も不要、自治体職員が動くことも税金を投じる必要もない”自然発生する「地域経済」の実需”なのだ。だから欧州だけでなくアメリカでも、住宅建設に全国を股にかける大手は存在せず、地域密着型のデベロッパーとホームビルダー、職人たちが家を建てている。それこそが補修やメンテナンスを含めて、技術の伝承と後継者の育成、持続可能な地域の風景と雇用を守ることに繋がっている。裏を返せば地元で資産家の地主が、大手プレハブメーカーでアパート建築をすることは、貴重な土地を使い「相続税対策」という“割高な建設費”を支払って、富を十数年域外に流出し続け、その周辺の空き家を誘発している。そのことを欧州の人たちは「なぜ日本の資産家はそんな簡単なことにも気づかず、地域の衰退に寄与しているのだろう」と不思議に思っているに違いない。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

JA直営の常設直売所。オシャレ感を出すために建築コストを掛け過ぎると、単独では赤字経営になり兼ねない。地元産の野菜などを理由をつけて割高で購入することが「農家の応援」になっていることも少なくない。過疎化や高齢化が進む地方で、持続可能な取り組みかは疑問だ。

最近、道の駅やJAの直売所で産直市が開かれるようになった。画像は安芸高田市のベジパーク。
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