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若本修治の住宅コラム

2022.1.20 第180話

住宅業界に見る「イノベーションのジレンマ」。

 世界中に猛威を奮った新型コロナ禍は実質3年目に入り、経済は落ち込みながら物価は上昇するというおかしな現象が起こっている。「デフレ脱却」のために続けられた“円安誘導”は、為替によってエネルギーや輸入品の価格を2~3割程度押し上げるマイナス効果となり、物価上昇に拍車を掛けた。さすがに経済界も「悪い円安」と言い始め、住宅業界は、『ウッドショック』という構造材不足や建築費の上昇が年明けも止まりそうにない。しかし巨大な新築のマーケットが景気にプラス影響を及ぼす日本では、建築費の上昇はGDPにプラスに働き、住宅業界にとっても必ずしもマイナスではない。だから、国民の負担が増えても政府は問題意識もないようだ。奇しくも国交省が建築統計のデータを長年水増ししていたことも発覚した。

 

 元々経済成長の力が弱くなっていた日本では、今回のパンデミックでさらに成長が鈍化、数年後には人口一人あたりのGDPが台湾や韓国にも抜かれるという状態にまで陥っている。そのため新しく登場した広島出身の岸田政権では『新しい資本主義』を掲げ、日本の労働生産性向上や、産業界にイノベーションを促進することで、国民の所得を上げ、成長と分配の好循環を達成しようと動き始めた。

 

 しかし“国民が豊かさを感じる”ためには、誰もが逃れることが出来ない「住居費支出」は、安定していることが大切で、それが大きな上昇となれば、実質の可処分所得が減ることと同じだ。つまり「賃貸住宅」では家賃、マンションや戸建てなどの「持ち家」では、住宅ローン支払いが抑えられる方が国民にとって望ましい。むしろ家計に直結して毎月支払う「居住関連支出」(=フローの現金)は抑えられ、すでに所有している「不動産の資産価値」(=ストックの個人資産)が、ゆっくりとでも上昇することこそ、国民にゆとりをもたらせて、お金を消費しても安心な社会をつくることに繋がる。ちなみに以下のグラフは、私が地元の広島経済大学の学生に特別講義を行った時に示した大手ハウスメーカーの賃貸住宅の建築単価の推移だ。将来賃貸に住み続けるリスクは、持ち家以上に住居費が変動し兼ねないことだ。

デフレ経済下の2010年から10年間の某大手ハウスメーカーの賃貸住宅の平均単価の推移。家賃が倍増するような経済環境にはないものの、着工戸数が減れば売上確保は「客数(棟数)×工事単価」となるから、適正価格を知らない相手(相続税対策でアパートを建てる地主等)には意図的に値段を釣り上げていることが分かる。何と10年間で建築費は倍増だ!上場企業は、株主向けに情報公開しているから、工事単価の推移を調べてから発注先を検討しよう!


 

 地方においても安定的に値上がりする資産は、既存住宅市場でも“流動性”が高まる。マーケットで売りやすければ、いま社会問題になっている空き家の抑制にも繋がる。そうなれば、住宅ローン返済の負担感も弱まって「リバースモーゲージ」などで自宅を担保に借り入れ余地が増えれば、老後の資金的不安感も大きく減るだろう。若い頃に負担した住宅ローンが、年金不足を補う社会は、国にとっても大きなメリットになる。これこそまさに『新しい資本主義』の実現であり、また『デジタル田園都市国家構想』の目指す姿ではないだろうか?

 

■住宅業界のイノベーション

 

 国際競争にさらされている「グローバル産業」では、技術力だけでなく価格やユーザビリティ(操作性)、環境への配慮など、世界のマーケットの中で一定のシェアを確保するために、常にイノベーションが求められている。しかし、日本が世界を席巻していた自動車や家電、半導体などの分野では、トヨタ自動車など一部の企業を除き、商品はコモディティ化して競争力を失いつつある。組織も硬直化してイノベーションが起こりにくい“保守的”な企業が増えて相対的に日本の競争力低下が顕著になってきた。一方で住宅業界のような「ドメスティック産業」とよばれる、ほぼ国内市場を対象に日本人ユーザーが購入する製品やサービスを提供している企業は、ブランド力や広告宣伝で消費を刺激し、日本の多段階流通や中抜き企業によって世界と比べて割高な価格設定をしていても、多くの人たちは気づかないままそれを購入している。日本の住宅はその最たるもので、だから業界内は保守的なまま、イノベーションはほぼ起こらない。

 

 私がこの十数年、住宅業界を見てきて、従来の常識にとらわれることのない異業種からの参入企業が、海外の事例や制度を研究して、少しずつ“さざ波”を起こし始めたと感じている。まだまだ既存事業者の力は衰えていないとはいえ大きな転換の節目にあり、パラダイムシフトやイノベーションを起こすマグマは地表近くまで届きそうだ。それは「今後確実に新築マーケットは縮む」という”競争環境の激化”と、「住宅産業の固定費が高止まり」したままで、多くの既存事業者の”非常に脆弱な経営環境”が挙げられる。異業種から新しいビジネスモデルで参入された場合に、オールド企業は自らを変革する余力もなく、社内の抵抗勢力も強まるだろう。百貨店がショッピングセンターやコンビニに顧客を奪われ、その後食品スーパーもドラッグストアやディスカウントストアと消耗戦を繰り広げている現状を見れば、住宅業界も新たなプレイヤーによって主役は交代していくに違いない。

広島都市圏に次々とオープンする九州資本のディスカウントストア。食品スーパー同士も激しい出店競争をしているが、ドラッグストアが高収益の医薬品販売を強みに、食料品やお酒・日用品などをスーパー以上に低価格で扱い、さらに家電も含めた総合的品揃えのディスカウントストアが広い駐車場を確保して郊外に進出してくると、老舗のデパート・百貨店は息の根を止められつつある。

 

 特に既存の大手ハウスメーカーは、すでに戸建住宅の供給だけでは巨体を維持できなくなり、分譲マンションや賃貸アパート市場へと軸足を移し、また倉庫でも商業施設でも受注できれば何でもいいという状況にまで追い込まれている。「建築請負業」という業種から脱却できず、経営者はイノベーションの意思決定さえ出来ないほど、保守的になって、営業成績を上げることに大号令を掛けるしか出来ない体たらくだ。

今、異業種から住宅産業に参入すれば、大きなチャンスが到来している。既存企業は、経済用語で使われる『イノベーションのジレンマ』という病に冒されており、簡単には追従できない「アキレス腱」を持っている。ここではその詳細は明かさないが、私は異業種からの参入を歓迎したいし、成功のためのノウハウを惜しまず提供していきたい。住宅業界が新しくなれば、新しい資本主義の輪郭も見えてくるだろう。

大手ハウスメーカーの建築条件付き分譲地。街路樹も芝生もなく、電柱と電線ばかりが目立つ敷地に、30年前と同じ体質の会社しか選べず、割高な家を買わされる状況は、もはや変えていかなければ地方が疲弊していくばかりだ。

 

ダブルスネットワーク株式会社 代表取締役 若本 修治(中小企業診断士)

 

 
全国の大型宅地分譲地では、多くがテレビ局とタイアップして、多大な広告宣伝費を使える資本力のあるハウスメーカーのみしか販売できない「建築条件付きエリア」が設定されている。
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